この記事でわかること
- 右手はお金、左手は人を招くといわれる
- 左右の意味は言い伝えで、辞典には根拠がない
- 豪徳寺・住吉大社は左右に独自の願いを添える
- 願い・作り手・置く場所から手を選ぶ
招き猫は、右手を上げていればお金を、左手を上げていれば人を招くといわれています。ただしこれは決まりではなく、寺社や地域によって左右の意味が入れ替わることもある言い伝えです。どちらの手が正しいのか、迷ったことはないでしょうか。
左右の意味が生まれた背景まで知っておくと、願いと置く場所に合った一体を自分で選べるようになります。寺社が伝える意味と書籍が紹介する説を、出典とあわせて整理しました。
招き猫の右手と左手の意味

招き猫は、上げている手が右か左かで招くものが変わり、両手や手の高さにも意味が込められています。いずれも寺社や窯元が定めた決まりではなく、人々のあいだで語り継がれてきた解釈です。
右手はお金、左手は人を招く
右手を上げた招き猫はお金(金運)を、左手を上げた招き猫は人(客や縁)を招くといわれています。日本招猫倶楽部も、右手は「お金」を、左手は「人やお客」を招くと紹介しています。
お金と人に分ける考え方は、商いの縁起物として広まった招き猫らしい解釈です。
右手・左手の招き猫に伝わる意味
| 上げている手 | 招くといわれるもの | 別の言い伝え |
|---|---|---|
| 右手 | お金・金運 | 昼の商売向け/一般家庭向け |
| 左手 | 人・客・縁 | 夜の商売向け/商売の店向け |
表の右の列のように、同じ右手と左手でも「昼の商売と夜の商売」「家庭と店」で分ける言い伝えがあります。とはいえ、どの説にも由来を示す記録は残っていません。
手の意味がひとつに定まらないこと自体が、招き猫の言い伝えの幅の広さを物語っているといえるでしょう。
招き猫の手の左右をタトゥーの図案にするときの数え方や、色・小判の意味は別の記事で紹介しています。
両手と手の高さの意味
両手を上げた招き猫は、お金と人の両方を招くといわれています。
手の高さにも意味があり、耳より高く上げた「手長」の招き猫は、大きな福や遠くの福を招くとされてきました。耳より低い手の招き猫は、小さな福や身近な福を招くという解釈です。
そのため、願いの大きさと手の高さを合わせて考えると、一体を選びやすくなります。
両手の招き猫を避ける理由や、選ぶときの考え方、手の高さごとの意味の違いは、それぞれ別の記事で詳しく扱っています。
招き猫研究所が定義する手の意味
招き猫研究所では、手の左右と高さが招くものを次のように定め、研究所のすべての記事でこの言葉を使っています。
招き猫研究所の手の定義
| 手 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 右手 | 金運(お金を招く) | 右手の手招きは、お金の巡りと商いの実りを呼び寄せる |
| 左手 | 人招き(客と縁を招く) | 左手の手招きは、客・仲間・良い出会いなど、人とのご縁を呼び寄せる |
| 両手 | お金と人の両方を招く | 右手と左手の願いを一体に重ねた姿。研究所では「お手上げ」とは読まない |
| 手長(上げた手が耳より高い) | 遠くの福・大きな福を招く | 高く伸ばした手は、まだ見ぬ遠くの客や大きな福まで呼び寄せる |
| 手短(上げた手が耳より低い) | 身近な福を招く | 顔のそばの手は、毎日の暮らしの中にある身近な福を呼び寄せる |
この定義は、色・持ち物の定義とあわせて招き猫研究所 資料室の「招き猫研究所の定義」にまとめています。
右手と左手で意味が分かれた背景
右手と左手の意味には、学術的な定説がありません。伝わっているのは、いくつかの書籍が紹介する説と、そこから広まった言い伝えです。
左右の意味について、わかっていること
- 辞典類には、左右の手のご利益に関する記述がない
- 招き猫は左手から始まり、意味はあとから付いたとする説がある
- 仏教の左右観から「右で招く」とする説と、その逆の説がある
意味は言い伝えで、辞典には記述がない
愛知県図書館は、国立国会図書館のレファレンス協同データベースに調査事例を登録しています。その事例では、招き猫の左右の意味を辞典類で調べました。
日本大百科全書や国史大辞典、日本民俗大辞典などには、左右の手のご利益に関する記述が見つかりませんでした。一方で、招き猫を扱った一般書の多くが「右手はお金、左手は客」と紹介していると報告されています。
つまり左右の意味は、学問的に裏付けられた事実というより、招き猫を愛好する人や作り手のあいだで広まった言い伝えです。言い伝えだからこそ、地域や寺社によって違う意味が生まれる余地があったと考えられます。
工芸史研究者の畑中英二氏も、研究所の取材に「右手あげているのはお金で、とか、左手あげたら人を、とか。そんな最初から言うてましたか?みたいな。」と語っています。縁起物の世界には余白が多く、説明はあとから付け加わり再構成されていくという見方です。辞典の調査と研究者の見立ての両方が、左右の意味を後から育った言い伝えと示しています。
本物の猫にも利き手のような前足の偏りがあるかどうかは、次の記事で研究を紹介しています。
左手が先につくられたという説
同じ調査事例では、意味があとから付けられたとする説も紹介されています。この説を載せている書籍は、次の2冊です。
- 辻原康夫『招き猫は何を招いているのか』(光文社、2006年)
- 三橋健『右手をあげる招き猫』(PHP研究所、1995年)
両書によれば、招き猫は当初つくりやすさを優先して左手で始まったようです。その後、職人の気まぐれから右手を上げたものもつくられ、意味は「あとづけと考えるのが自然」とされています。
この説に立つと、右手と左手の意味は、形が先にあり、あとから願いが重ねられたことになります。
そこで、招き猫の意味を「正解」として覚えるより、人々が形に願いを託してきた歴史として捉えてみてください。左右の違いが、ぐっと身近に感じられるはずです。
仏教の左右観と「右で招く」説
左右の意味には、宗教の考え方と結び付けた説もあります。宮崎良子『招き猫の文化誌』(青弓社、1988年)は、仏教の考え方にもとづく説を紹介しました。仏教では左手が不浄とされることから、招き猫は右手で招くのが本当だという説です。
反対に、右手を上げれば人を招き、左手を上げれば福を招くという逆の説もあります。この説は、菊地真・日本招猫倶楽部編『招き猫の文化誌』(勉誠出版、2001年)に載っています。
同じ招き猫でも、資料によって左右の意味が入れ替わるのです。
ただし、どの説が正しいかを決める記録は見つかっていません。そのため研究所では、複数の説を並べて紹介しています。
寺社や地域によって異なる左右の意味

招き猫ゆかりの寺社には、一般的な言い伝えとは違う左右の意味を伝えているところがあります。左右の決まりが土地や時代によってつくられてきたのは、招き猫に限った話ではありません。
雛人形も、京都を中心とする関西では男雛を向かって右に置き、関東では向かって左に置くのが一般的です。関西の並びは、日本古来の「左上位」のしきたりによるものです。
関東の並びは、1928年の昭和天皇の即位式を機に東京の人形組合が提唱して広まりました。いずれも日本人形協会の公式サイトで紹介されています。縁起物の左右は、ひとつの正解ではなく、それぞれの土地で受け継がれてきた形といえるでしょう。
寺社や言い伝えごとの左右の意味
- 豪徳寺:右手で「縁」を招く(小判は持たない)
- 住吉大社の初辰まいり:右手は商売繁盛、左手は家内安全
- 昼夜で分ける言い伝え:右手は昼の商売、左手は夜の商売
豪徳寺の招福猫児は右手で「縁」を招く
招き猫発祥の地のひとつとされる世田谷の豪徳寺では、招き猫を「招福猫児(まねきねこ)」と呼びます。豪徳寺の招福猫児は小判を持たず、右手を上げていると公式サイトで紹介されています。
一般的な言い伝えでは右手はお金を招く手ですが、豪徳寺が伝える意味はそれとは異なるのです。招福猫児は人を招いて「縁」をもたらすものの、福そのものを与えるわけではありません。
縁を生かせるかどうかはその人次第だという教えから、小判を持たずに右手だけを上げているのです。
つまり、右手が「お金」ではなく「縁」を表す例として、招き猫の左右を考えるうえで欠かせない寺といえます。
招福猫児の由来は、井伊直孝が門前の猫に手招きされて寺に立ち寄り、雷雨を避けられたという言い伝えです。この縁から豪徳寺は井伊家の支援を受け、寛永10年(1633年)に再興されたと伝えられています。
住吉大社の初辰まいりは月ごとに左右が替わる
大阪の住吉大社では、毎月最初の辰の日に「初辰(はったつ)まいり」がおこなわれます。境内の楠珺社(なんくんしゃ)で授かるのは、奇数月が左手を上げた小猫で、家内安全を祈るためのものです。
偶数月には右手を上げた小猫を受けて商売繁盛を祈ると、公式サイトで紹介されています。
初辰まいりでは右手が商売繁盛、左手が家内安全を表します。公式は左手を「人招き」、右手を「金招き」とも説明しており、一般的な「お金と人」の分け方に家内安全と商売繁盛の願いを重ねた形です。4年をかけて48体をそろえると満願となり、「四十八辰(しじゅうはったつ)」を「始終発達」にかけた縁起とされています。
なお、1997年に刊行された縁起物の図鑑には、左右とご利益を逆に記した例がありました。寺社で授かる招き猫の意味は、寺社の公式の案内で確かめることが大切です。
授与料は2026年9月から改定すると、公式サイトに記載があります(2026年10月時点)。参拝前に、最新の案内を確認してください。
出典:住吉大社「初辰まいり」
昼の商売と夜の商売で分ける言い伝え
左右を商売の時間帯で分ける言い伝えもあります。右手を上げた猫は昼の商売向け、左手を上げた猫は夜の商売向けとする考え方です。愛知県図書館の調査事例では、『幸せの招き猫』(藤田一咲・村上瑪論、1995年)などがこの説を載せています。
あわせて、京都の例を記した書籍もあります。岩上力『縁起物 京の宝づくし』(光村推古書院、2003年)は、黒い招き猫が商売用とされると記しました。そのうえで、右手挙げが昼の商売、左手挙げが夜の商売といわれることもあると紹介しています。
つまり、昼に客を迎える店と夜に客をもてなす店とで、招く手を分けてきたという解釈です。同じ「人を招く」でも、どの時間に誰を迎えたいかで手を選ぶ考え方は、商いの現場から生まれた知恵といえます。
招き猫の右手と左手の選び方
左右の意味がひとつに決まっていないからこそ、選ぶときは「願い」「作り手」「置く場所」の3つを軸にすると迷いません。
願いで選ぶ
願いがはっきりしているなら、一般的な言い伝えに沿って手を選ぶのがわかりやすい方法です。一方で、寺社で授かる招き猫は、その寺社が伝える意味を大切にしましょう。
願い別・招き猫の手の選び方
| 願い | 選ぶ手 | 補足 |
|---|---|---|
| お金・商売繁盛 | 右手 | 住吉大社の初辰まいりでも、右手は商売繁盛を祈る猫 |
| 人・客・縁 | 左手 | 豪徳寺の招福猫児は、右手で縁を招く |
| お金も人も | 両手 | ― |
| 寺社の授与品 | その寺社の意味に従う | 寺社ごとに左右の意味が異なる |
迷ったときは、いちばん叶えたい願いをひとつに絞り、その願いに合う手を選ぶと決めやすくなります。願いが複数あるなら、手の違う二体を迎えるという選び方もできるでしょう。
作り手と造形で選ぶ
左右の意味を形として守り続けているのが、招き猫をつくる窯元です。瀬戸で招き猫を手がけるフジコウセラミックは、研究所の取材で作り方の考えを語りました。
奇をてらわず、長く親しまれてきた基本形を尊重しているといいます。右手・左手の意味や耳の位置など、従来の解釈が成り立つ造形を大切にしているそうです。
その一方で、同社は「招き猫のあり方は、もっと自由であっていい」とも話しています。意味より形に惹かれて選んでもよいという言葉は、作り手ならではの見方でしょう。
意味を知ったうえで、最後は手に取ったときの佇まいで決めることも、招き猫の選び方のひとつです。焼成の温度や時間へのこだわりなど、フジコウセラミックが語った招き猫づくりの現場は取材記事にまとめています。
置く場所で選ぶ
招き猫は、置く場所の役割と手の意味をそろえると、込めた願いがはっきりするでしょう。
言い伝えに沿って考えるなら、客を迎えたい店先や入口には人を招く左手が合います。お金を扱う帳場やレジまわりには、お金を招く右手が向いているでしょう。
家庭では、家族の縁を願うなら左手、暮らしの豊かさを願うなら右手と考えることもできます。ただし、寺社の授与品を置く場合は、その寺社の作法や案内に従ってください。
店先・縁側・玄関など、場所ごとに込められてきた願いや置き方の考え方は、別の記事で詳しく紹介しています。
願いと置く場所で手を決めたら、最後はどこで誰が作った一体を迎えるかが気になるところです。Luxen Manekiは、招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所の招き猫ブランドです。
瀬戸焼の伝統窯の職人が一体ずつ手描きで金彩を施し、注文を受けてから約4〜6週間かけて仕上げています。
よくある質問
Q. 招き猫が左手を上げるのはなぜですか?
A. 左手を上げた招き猫は、人や客、縁を招くといわれているためです。店先など人を迎えたい場所に置かれてきました。一方で、招き猫は当初つくりやすさから左手で始まり、意味はあとから付けられたとする説もあります。言い伝えとして楽しむのがよいでしょう。
Q. 右手の招き猫を置けば金運は上がりますか?
A. 右手の招き猫は金運を招くといわれ、商売繁盛や暮らしの豊かさを願って置かれてきた縁起物です。ただし、置くだけで金運が上がると約束されたものではありません。願いを込めて大切に飾り、日々の励みにする存在として迎えるとよいでしょう。
Q. 招き猫の右手・左手は、見る人から見た向きですか?
A. 招き猫自身から見た右手・左手を指します。正面から向き合うと、右手を上げた招き猫は、向かって左側の手を上げていることになります。写真で選ぶときは左右を取り違えやすいため、どちらの前足を上げているかを確かめておくと安心です。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
右手と左手の意味は決まりではないからこそ、何を願い、誰の手で作られた一体を迎えるかが、その招き猫の価値になります。招き猫研究所がつくる「Luxen Maneki」は、瀬戸焼の伝統窯の職人が一体ずつ手描きで金彩を施した招き猫です。
量産の招き猫との違いは、注文を受けてから約4〜6週間かけて、ひとつずつ仕上げる点にあります。お届けには、湿気や火に強いことから昔は金庫の内箱にも使われた桐の、特製の箱を用いています。長く手元に置く一体として、職人の手仕事に触れてみてください。
まとめ
招き猫の右手はお金、左手は人を招くといわれますが、辞典に根拠のある意味ではなく、語り継がれてきた言い伝えです。左手が先につくられ、意味はあとから付いたとする説もあります。
豪徳寺の招福猫児は右手で縁を招き、住吉大社の初辰まいりでは右手が商売繁盛、左手が家内安全を表します。寺社によって左右の意味は変わるため、授かる招き猫はその寺社の案内に従いましょう。
選ぶときは、叶えたい願い、作り手、置く場所の3つを軸にすると迷いません。由来を知ったうえで迎えた一体は、飾るたびに込めた願いを思い出させてくれるでしょう。









