この記事でわかること
- 招き猫は客と財宝を招く商いの縁起物とされる
- 客足を願うなら左手、売上を願うなら右手
- 住吉大社や豪徳寺に商売繁盛の招き猫が伝わる
- 開店祝いには手や持ち物の意味を添えて贈る
招き猫が商売繁盛の縁起物とされるのは、人を手招きする姿が、客を呼ぶ願いに重ねられてきたためです。辞典も、招き猫を客商売の家に飾る縁起物として説明しています。
では、商売繁盛を願うなら左右どちらの手を選べばよいのでしょうか。辞典と寺社の公式をたどると、手の選び方から贈り方まで自分で判断できるようになるはずです。
招き猫が商売繁盛の縁起物とされる理由

招き猫が商いの場で好まれてきた理由は、姿と生まれた土地の両方にあります。辞典の説明と、招き猫が生まれた江戸の町の事情から確かめます。
商売繁盛の縁起物とされる理由
- 手招きの姿が、客と財宝を招く縁起として受け取られた
- 花街や飲食店、商家などで愛用されてきた
- 江戸では商売繁盛、養蚕地帯ではネズミ除けと意味が分かれた
客と財宝を招く手招きの姿
招き猫は、商売繁盛を願って客と財宝を招く縁起物です。ブリタニカ国際大百科事典の定義でも、手招きのポーズをとる猫は客商売の家に置く縁起物とされました。
世界大百科事典によれば、その姿が人を招く姿に似ていることから、花街や飲食店などで愛用されてきました。芸者の呼び名「ネコ」にちなむという説明もあります。
日本大百科全書も、客を呼び込み福を招く縁起から、招き猫はいまも商家や飲食店で喜ばれていると記しました。
つまり、客を呼びたい店にとって、手招きの姿そのものが願いの形だったといえます。縁起物の中での招き猫の立ち位置は、別の記事で詳しく扱いました。
商いの町・江戸で育った縁起物
招き猫が生まれたのは、商いの盛んな江戸の町でした。日本招猫倶楽部は、招き猫が約180年前の江戸時代に、江戸で福を招く縁起物として誕生したと紹介しています。
一方で、同じ招き猫でも土地によって託される願いは違いました。研究所のインタビューに応じた島村恭則氏(民俗学者)によれば、江戸では招き猫が商売繁盛の象徴として育ったといいます。
それに対して、養蚕の盛んな群馬や福島では、ネズミを除けて蚕を守る役目のほうが重んじられたそうです。
民俗学者の飯倉義之氏は、研究所の取材に「すでにある五穀豊穣とか大漁の神様を借りてくるんですよね。」と語っています。商売繁盛の神様は農耕や漁労の神様より遅れて発達し、お稲荷さんや大黒様、恵比寿様を借りてきたという説明です。蚕をネズミから守る猫も、同じように福の存在と考えられていったと飯倉氏は話します。
ほかの縁起物では、酉の市の熊手も商いの願いと結びついてきました。浅草の長國寺は、熊手を「運をかっこむ」縁起物と伝えています。熊手が福をかき込む道具の形を借りたのに対し、招き猫は客を呼ぶしぐさを形にした縁起物です。
招き猫が江戸から各地へ広まった歩みと、島村氏の話は次の記事で読めます。
寺社に伝わる商売繁盛の招き猫
商売繁盛の願いは、寺社で授かる招き猫にも受け継がれています。授かり方やご利益の伝え方は、寺社ごとにさまざまです。
民俗学者の飯倉義之氏は、研究所の取材に「商売繁盛などの意味を明確に持たせて、寺社などにまつわって配布していくっていうのは、日本独自ですね。」と語っています。寺社が授ける招き猫は、商売繁盛の願いと結びついて広まった、日本ならではの縁起物の形といえます。
住吉大社の初辰まいりと招福猫
大阪の住吉大社には、月初めの辰の日に参拝して招福猫を授かるならわしが、いまも続いています。初辰(はったつ)を「発達」にかけた参拝で、商いを営む人から篤く信仰されてきたそうです。
偶数月には右手の小猫を求めて商売繁盛を、奇数月には左手の小猫を求めて家内安全を祈ります。小猫が48体そろうと中猫と交換し、さらに年月を重ねて大猫へと進むのが習わしです。
四十八辰を「始終発達」と読む語呂には、商いが絶えず発展するようにという願いが込められています。そのため左右の大猫をそろえるまでには24年かかり、時間をかけて商いを育てる考え方が形になっているのです。
豪徳寺とお松大権現
商売繁盛は、豪徳寺やお松大権現でもご利益の一つに数えられています。東京・世田谷の豪徳寺には、招福猫児(まねきねこ)を祀る招福殿があります。
寺によれば、招福殿には家内安全や商売繁盛、開運招福を願って多くの参詣者が訪れるそうです。徳島県阿南市のお松大権現も、勝負の神として知られる一方で、商売繁盛や金運招来をご利益に挙げています。
奉納された招き猫は約1万体にのぼり、左手を上げた猫は千客万来を呼ぶといわれてきました。ただし豪徳寺の説明では、招福猫児の役目は人との縁を運ぶことで、福を直接与えることではありません。
そのため、寺社の招き猫は、ご利益の伝え方まで含めて受け止めるとよいでしょう。招き猫を祀る全国の寺社と、豪徳寺での授かり方は、次の記事で確かめられます。
商売繁盛を願う招き猫の選び方

商売繁盛を願うなら、客を招く左手が基本です。ただし寺社によっては右手に商売の願いを当てる例もあり、持ち物でも願いを書き足せます。
左手は客、右手はお金を招く
客足を願うなら左手、売上を願うなら右手という分け方は、公式2か所の説明と一致します。愛好家団体と窯元の2か所と寺社の説明を、商いの願い別に整理しました。
商売の願いと選ばれる手
| 商売の願い | 選ばれる手 | 出典 |
|---|---|---|
| 客を増やしたい | 左手(人・お客を招く) | 日本招猫倶楽部・梅月冨本人形園 |
| 売上やお金を招きたい | 右手(お金を招く) | 日本招猫倶楽部・梅月冨本人形園 |
| 千客万来 | 左手 | お松大権現 |
| 商売発達 | 右手 | 住吉大社 楠珺社 |
表のとおり、住吉大社は商売の願いを右手の招福猫に当てています。同じ商売繁盛でも、寺社によって左右の受け止め方が異なるのです。
そのため、寺社で授かるならその寺社の説明を優先しましょう。店で選ぶなら、客と売上のどちらを重く願うかで手を決めると迷いません。
大入猫や小判を抱えた招き猫
持ち物を見ると、招き猫に込めた商いの願いがより具体的にわかります。招き猫の持ち物は、小判に限りません。
大入り(おおいり)とは、興行場などに客が大勢入ることを指す言葉です。常滑の梅月冨本人形園は、定番の招き猫とは別に大入猫を作っていると紹介しています。
このように、持ち物は商いの願いを書き足す余白のような役割を果たしてきました。
開店祝いは意味を添えて贈る
開店祝いの招き猫は、手や持ち物の意味を一言添えて贈ると気持ちが伝わります。開業や開店の祝いに招き猫が選ばれるのも、客と財宝を招く縁起物とされてきたからでしょう。
常滑の梅月冨本人形園は、小判や腕、背中に名前や会社名を入れる特注に応じています。同園は、開店祝いや会社の周年記念品にも向くと案内していました。
あわせて研究所の取材では、同園の招き猫が新築祝いや周年記念、就任祝いといった節目の贈り物に選ばれていると聞きました。贈る場面ごとの選び方やマナーは、次の2つの記事で詳しく扱っています。
由来を添えて贈るなら、どこでどう作られた一体かまで伝えられると話が広がるでしょう。「Luxen Maneki」は、招き猫研究所と同じ株式会社日本招き猫総合研究所により運営されているブランドです。
瀬戸焼の窯で、職人が手描きの金彩を一体ずつ施した招き猫です。
よくある質問
Q. 商売繁盛の縁起物には招き猫のほかに何がありますか?
A. 辞典では、だるまや酉の市の熊手、福助などが招き猫と並ぶ縁起物に挙げられています。百科事典マイペディアは、これらを寺社の縁日などで頒布された呪物(じゅぶつ)が商品になったものと説明しています。盛んになったのは江戸中期からだそうです。願いの表し方に共感できるものを選ぶとよいでしょう。
Q. 招き猫は店のどこに置けばよいですか?
A. 世界大百科事典は、正月に招き猫を買い求めて店の入口に置く風習を記しています。一方で日本招猫倶楽部の答えでは、飾り方に特に決まりはありません。客を招く願いなら、客から見える入口の近くに置くと招き猫の由来にもかないます。
Q. 商売繁盛の招き猫は何色を選べばよいですか?
A. 公式2か所には、商売繁盛だけに当てた色は見当たりません。金は金運、白は開運招福の色とされるため、売上を願うなら金、商い全体の福を願うなら白が手がかりになります。招き猫研究所も、金の招き猫が商いの縁起物として広まった経緯から、金を金運・仕事運の色と定義しました。手の意味と組み合わせて選ぶと願いがはっきりします。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
商いの願いを託す一体は長く店に置くものなので、作り手まで確かめて選びたいと考える人もいるでしょう。ただ、店先に並ぶ招き猫から、どの産地の誰が仕上げたのかを読み取るのは簡単ではありません。
「Luxen Maneki」は、六古窯の一つ・瀬戸焼で研究所が手がける招き猫です。金・白・黒の3体をそろえ、注文を受けてから一体ずつ仕上げる受注生産で、お届けまで約4〜6週間かかります。
包装に使うのは特製の桐箱です。桐は湿気を吸っては吐く性質をもち、かつては金庫の中の箱にも用いられたといいます。
まとめ
招き猫が商売繁盛の縁起物とされるのは、手招きの姿が客と財宝を招く願いに重ねられたからです。江戸の商いの町で育ち、花街や飲食店、商家で好まれてきました。
客足を願うなら左手、売上を願うなら右手を選ぶと、公式の説明と食い違いません。住吉大社のように右手に商売発達を当てる寺社もあるため、授かる場合は寺社の説明に従いましょう。
開店祝いに贈るなら、手や持ち物に込めた願いを一言添えて渡すと、招き猫の由来ごと気持ちが伝わります。











