この記事でわかること
- 小判は常滑系の招き猫が抱える金運の持ち物
- 小判には「開運」「千万両」などの文字が入る
- 豪徳寺の招福猫児は寺の教えで小判を持たない
- 小判の有無は、型と寺社の考え方から選ぶ
招き猫が抱える小判は、二頭身の「常滑系」と呼ばれる型の招き猫に典型的な持ち物です。金運を形にした持ち物として親しまれ、「千万両」のような金額が書かれた小判もあります。
一方で、小判を持たない招き猫も少なくありません。同じ招き猫なのに、なぜ小判を抱える猫と抱えない猫がいるのでしょうか。
小判の正体や書かれた文字、持たない理由がわかれば、願いに合う一体を自分で見分けられます。窯元と寺の公式情報、辞典の記述をもとに整理しました。
招き猫の小判の意味
招き猫の小判は、お金の願いを目に見える形にした持ち物です。もとになった小判そのものを知ると、猫が金貨を抱える姿の意味がはっきりします。
小判は金運を表す持ち物
小判を抱えるのは、常滑系と呼ばれる型の招き猫の特徴です。愛知県の観光サイトも、常滑系の招き猫を、大きな小判をがっちりつかんだ二頭身の姿と紹介しています。
観光庁の解説文によれば、常滑の招き猫は片方の前足で手招きし、もう片方の前足で小判を握る姿です。
招き猫の姿と小判の位置
| 姿の要素 | 常滑系の典型的な形 |
|---|---|
| 上げた前足 | 右手ならお金、左手なら人を招くといわれる |
| 上げていない前足 | 小判を抱える |
| 小判が表すもの | 金運 |
つまり常滑系の招き猫は、上げた手で福を呼び、もう一方の手に富の象徴を持つ形です。
金運と招き猫の結びつきや、手・色・持ち物ごとの意味は、次の2本で詳しく扱いました。
江戸の金貨「小判」と猫の取り合わせ
招き猫が抱える小判は、江戸時代に使われた楕円形の金貨を写したものです。デジタル大辞泉は、小判を1枚で1両とする幕府発行の標準貨幣と説明しています。
小判の鋳造が全国に広がったのは、慶長6年(1601年)の慶長小判からでした。日本国語大辞典によれば、表面には「壱両」と「光次」の文字が打ち込まれています。
ほかの縁起物と並べると、招き猫の小判の特徴が見えてきます。酉の市の熊手は、落ち葉などをかき込む農具が縁起物になったものです。それに対して招き猫は、富を集める道具ではなく、金貨そのものを抱えています。
一方で、ことわざの「猫に小判」は、貴重なものを与えても値うちがわからないたとえです。ことわざの猫とは反対に、招き猫は小判を大事に抱えた姿で親しまれています。
招き猫の小判に書かれた文字
招き猫の小判には、金額や願いの言葉が書かれていることがあります。ただし、文字ごとの意味を定めた資料は、研究所が調べた範囲では見つかっていません。そこで、公式に確かめられた文字の例に絞りました。
「千万両」と書かれた小判
常滑の窯元には、「千万両」と書いた小判を抱える招き猫があります。梅月冨本人形園の15号の招き猫は、「開運」と「千万両」の2枚の小判を持つと、同園の公式サイトにあります。
招き猫の小判に書かれた文字の例(2026年10月時点)
| 招き猫 | 小判の文字 | 紹介している公式 |
|---|---|---|
| 15号開運小判猫(常滑) | 「開運」「千万両」の2枚 | 梅月冨本人形園 |
| 江戸時代の本物の小判 | 「壱両」「光次」 | 精選版日本国語大辞典 |
表を見比べると、本物の小判が1枚1両であるのに対し、招き猫の小判の金額は桁違いに大きいことがわかります。なお、金額が時代とともにどう変わったかを示す公式の記録は、確認できていません。
そのため、小判の文字は決まった意味を覚えるより、その一体にどんな言葉が書かれているかを見て楽しむとよいでしょう。
名前や会社名を入れる小判
小判は、持ち主の名前や会社名を書き込める面としても使われています。梅月冨本人形園では、名前や会社名など好きな言葉を、小判・腕・背中に入れる特注を受け付けています。
同園によれば、家を建てたときや店を開くときの祝い、会社の周年の記念品として頼まれることがあるそうです。予算に合わせた提案や、色やデザインの相談にも応じています。
そのため、贈り物にするときは、相手の店名を小判に入れた一体を選ぶ方法もあります。ただし、特注は焼き上げまでに時間がかかるため、渡す日から逆算して窯元に相談しましょう。
招き猫を贈るときの考え方や、場面ごとの選び方は、贈り物の記事で詳しく紹介しています。
招き猫が小判を持っていないのはなぜ?
小判を持たない招き猫には、寺の教えによるものと、型の違いによるものの2通りがあります。見た目は同じ「小判なし」でも、理由はまったく別です。
小判を持たない招き猫の2つの理由
- 豪徳寺の招福猫児は、縁を招く存在として小判を持たない
- 瀬戸系は、小判を姿の目印にしない型
- 理由が違うため、迎えるときに確かめる点も変わる
豪徳寺の招福猫児は「縁」を招くため
東京都世田谷区の豪徳寺は、招き猫に「招福猫児(まねきねこ)」という名を付けています。寺の公式サイトによると、招福猫児は小判を持たず、右手だけを上げています。
寺の教えでは、招福猫児は人を招き寄せて「縁」をつなぐ存在です。福そのものを授けてくれるわけではなく、縁を生かせるかはその人の心がけに委ねられています。
報恩感謝の気持ちがあれば、福はおのずとその人のもとに訪れると寺は伝えています。つまり小判がないのは省略ではなく、福は縁の先にあるという考えを示す姿なのです。
招福猫児の由来や値段、寺務所での授かり方は、豪徳寺の記事にまとめました。
瀬戸系は小判を目印にしない型
瀬戸系の招き猫は、小判を姿の目印にしない型です。愛知県の観光サイトは、大きな小判を常滑系の目印に挙げています。一方で瀬戸系については、決まった形がなく、さまざまなポーズの招き猫があると紹介しました。
愛知県の二つの産地の招き猫
| 系列 | 姿 | 小判 |
|---|---|---|
| 常滑系 | 丸い顔と大きな目の二頭身 | 大きな小判を抱える |
| 瀬戸系 | 生きた猫に近い細身で、決まった形がない | 姿の目印にはしない |
瀬戸では明治30年代から、生きた猫に近い細身の招き猫が量産されてきました。つまり瀬戸系に小判の決まりがないのは、教えの違いではなく、産地ごとの型の違いによるものです。
小判の有無は、その招き猫がどの産地の型から生まれたかを知る手がかりにもなります。瀬戸の招き猫の歩みは、産地の記事にまとめました。
細身の招き猫を育てた瀬戸では、今も招き猫づくりが続いています。瀬戸焼の招き猫「Luxen Maneki」は、株式会社日本招き猫総合研究所によるブランドです。同社は、招き猫研究所を運営している会社にあたります。六古窯のひとつに数えられる瀬戸焼で、伝統窯の職人が金彩を一体ごとに手で描いています。
招き猫に小判が描かれているのはなぜ?
今の招き猫の多くが小判を抱えているのは、小判を持つ常滑系が最も広く作られる型になったためです。常滑の招き猫づくりが本格化した時期をたどると、小判が定番になった流れが見えてきます。
常滑系の広まりで定番になった小判
小判を抱えた二頭身の「常滑系」は、全国に広まった型です。朝日新聞のsippoの記事によると、この形は昭和20年代に常滑で生まれ、各地で同じ形が作られていきました。愛知県の観光サイトも、常滑を招き猫の生産日本一の産地と紹介しています。
観光庁の解説文によれば、常滑での生産の始まりは1930年代後半でした。伝統的な焼き物産業が振るわなくなり、地元の職人が新しい仕事として招き猫の置物を作り始めたといいます。
研究所の取材でも、梅月冨本人形園の冨本さんは、祖父の代の昭和20年前後に招き猫づくりが本格化したと語りました。昭和25年ごろには、丸い大きな目と二頭身の基本の形が整っていたそうです。
その作り方は、泥漿(でいしょう:水を加えて液状にした粘土)を石膏型に流し込むものです。そのため同じ型から同じ姿の招き猫を数多く作れ、小判を抱えた姿が全国に広まる土台になりました。
常滑の招き猫の成り立ちと、三代続く窯元の仕事は、次の2本にまとめています。
小判のある招き猫・ない招き猫の選び方
小判の有無は、願いをどこまで形に表したいかで選ぶと迷いません。ただし寺社で授かる一体については、寺社が伝える教えに従いましょう。
願いと迎え方で選ぶ
金運の願いを姿にはっきり表したいなら、小判を抱えた常滑系の一体が候補になります。小判の文字に名前を入れたいときは、特注を受ける窯元に相談する方法もあります。
小判の有無で選ぶ招き猫
| 迎え方 | 選ぶ一体 | 確かめること |
|---|---|---|
| 金運の願いを形にしたい | 小判を抱えた常滑系 | 小判の文字 |
| 細身のすらりとした姿が好き | 瀬戸系の細身の一体 | 産地と作り手 |
| 寺社で授かりたい | その寺社の招き猫 | 寺社が伝える教え |
| 店名や名前を入れて贈りたい | 小判への名入れの特注 | 納期と予算 |
一方で、小判のない招き猫が金運に向かないという決まりはありません。豪徳寺の招福猫児のように、小判を持たないこと自体に教えが込められた招き猫もあるためです。
上げる手の左右と小判を組み合わせると、願いをさらに絞れます。手や色を含めた選び方は、次の記事で詳しく扱いました。
よくある質問
Q. 招き猫は小判をどちらの手で持っていますか?
A. 上げていないほうの前足で小判を抱えるのが典型的な形です。観光庁の解説文は、常滑の招き猫を片方の前足で手招きし、もう片方で小判を握る姿と紹介しています。2002年の時事用語事典によると、当時の店先で見慣れた招き猫は、左手を上げて右手で小判を抱く姿でした。
Q. 小判と大判は何が違うのですか?
A. 小判は大判を小型にした金貨で、1枚を1両とする江戸幕府の標準の貨幣です。百科事典マイペディアによると、慶長6年(1601年)に江戸の金座などで鋳造され、全国に流通しました。招き猫が抱えているのは、この小判を写したものです。
Q. 小判を持つ招き猫を置けば金運は上がりますか?
A. 小判を抱えた招き猫は金運を表す縁起物ですが、置くだけでお金が増えるという保証はありません。日本招猫倶楽部という愛好家団体も、現世的なご利益のために招き猫を愛しているのではないと語っています。願いをかなえようと手を挙げ続ける姿を愛しているそうです。願いを託す相手として迎えるとよいでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
小判を抱えるかどうかは型や寺社によって違うからこそ、誰がどう作った一体なのかも選ぶ手がかりになります。とはいえ、量産の招き猫と何が違うのか、迷う人もいるでしょう。
「Luxen Maneki」は、招き猫研究所がつくる瀬戸焼の招き猫です。伝統窯の職人が金彩を手描きし、一点ずつ仕上げています。受注生産のため、注文から届くまでには約4〜6週間が必要です。
届けるときは特製の桐箱に納めます。桐は湿気が増えると膨らんで隙間を閉じ、火がついても表面が炭になって燃え進みにくい木です。
まとめ
招き猫の小判は、常滑系の招き猫が抱える金運の持ち物です。もとになったのは江戸時代の1両の金貨で、招き猫の小判には「千万両」といった金額が書かれた例があります。
小判を持たない招き猫には、縁を招く豪徳寺の招福猫児と、小判を姿の目印にしない瀬戸系の2通りがあります。今の招き猫の多くが小判を抱えているのは、常滑系が最も広く作られる型になったためです。
選ぶときは、願いを形に表したいか、寺社の教えに沿うかを軸にしましょう。小判の文字や名入れまで確かめて迎えた一体は、込めた願いを長く思い出させてくれるはずです。








