この記事でわかること
- 招き猫の基本の置き場所は、人と福が入ってくる入口
- 店先・玄関・会社など、場所ごとに込める願いが違う
- 方角や左右の決まりは、寺社や産地の公式に見当たらない
- 迷ったら、願いと毎日目に入る場所で決めればよい
招き猫は、客と福を招く縁起物として、江戸時代から店先や店の入口に置かれてきました。家なら入口にあたる玄関、会社なら人を迎える場所が、その考え方を受け継いだ置き場所です。
では、玄関の左に置く、西に置くといった決まりを、どこまで気にすればよいのでしょうか。方角や左右の話は、招き猫の言い伝えではなく、家相や風水という別の考え方から来ています。
根拠の強さを分けて知っておけば、迷信に振り回されずに、自分の家や店に合う置き場所を決められます。辞典や寺社、産地の公式情報と、研究者・窯元への取材をもとに整理しました。
招き猫の置き場所【早見表】
招き猫の置き場所の基本は、人と福が入ってくる入口です。場所ごとに込められてきた願いと、その根拠の強さを一つの表にまとめました。
置き場所で押さえたいこと
- 辞典に記述があるのは「店先・店の入口」
- 玄関や会社は、その考え方を当てはめた置き場所
- 方角は家相・風水の考え方で、招き猫の決まりではない
基本は人と福が入ってくる入口
招き猫は、店先や店の入口に置く縁起物として辞典に記されています。デジタル大辞泉は、顧客や財宝を招く縁起から客商売の家で飾る置き物と説明しました。
世界大百科事典によれば、商店の店先に猫の像を置く習慣は江戸時代に始まりました。新年に招き猫を求め、店の入口に据える習わしもあったと、同じ事典の新しい版は記しています。
愛好家団体の日本招猫倶楽部も、招き猫は約180年前の江戸時代に、江戸の町で福を招く縁起物として生まれたと紹介しています。
なぜ入口なのかといえば、手招きという所作が、外から入ってくる相手に向けたものだからです。そのうえ芸者の異名を「ネコ」といったことから、招き猫は花街や飲食店で好まれました。
つまり招き猫の置き場所は、客が最初に目にする入口から始まったといえるでしょう。
場所ごとの置き方と根拠の強さ
置き場所ごとに、根拠の強さには差があります。辞典に記述がある場所と、その考え方を当てはめた場所、別の考え方から来た方角を分けて並べました。
招き猫の置き場所と根拠の強さ
| 場所 | 込められてきた願い | 手の目安 | 根拠の強さ |
|---|---|---|---|
| 店先・店の入口 | 客と福を招く | 左手(人を招く) | 辞典に記述がある |
| 家の玄関 | 家に福を招く | 願いで選ぶ | 店の入口の考え方を家に当てはめたもの |
| 会社・事務所 | 商売繁盛 | 願いで選ぶ | 客商売の家に飾るという記述の応用 |
| リビング・棚 | 暮らしの縁起物・好み | 自由 | 決まりはなく、作り手も自由に飾ってよいと語る |
| 方角(西・東など) | 金運などの運気 | ― | 家相・風水の考え方 |
表の上の行ほど、辞典や公式の記述に近い置き場所です。一方で方角は、招き猫そのものの言い伝えではなく、住まいの吉凶を見る家相や風水の側の考え方です。
だからこそ最初は入口に近い場所から考え、方角は好みで取り入れる程度にとどめると迷わずに済みます。
招き猫が置かれてきた場所
招き猫の置き場所は、土地の生業や時代によって変わってきました。商家の店先だけでなく、農家や寺、町の入口にも招き猫は置かれています。
招き猫が置かれてきた場所
| 置かれてきた場所 | 置いた人 | 込められた願い |
|---|---|---|
| 商家の店先・入口 | 商店・花街・飲食店 | 客と福を招く |
| 養蚕の盛んな地域の農家 | 農家(張り子の招き猫) | 蚕を食べるネズミを追い払う |
| 寺の奉納所 | 豪徳寺の参拝者 | 願いが叶ったお礼 |
| 町の入口 | 常滑市(招き猫通り・とこにゃん) | 訪れる人を迎える |
日本大百科全書によれば、関東などでは張り子(はりこ:型に和紙を重ねてつくる技法)の招き猫が達磨市で売られました。蚕の害敵であるネズミを遠ざけたい農家が、おもな買い手だったといわれます。
一方、陶器の招き猫の一大産地である常滑焼(愛知県常滑市)では、町そのものが招き猫の置き場所です。駅と陶磁器会館を結ぶ「とこなめ招き猫通り」には、陶芸家による39体の招き猫が並びます。
通りの途中では、高さ3.8mの「とこにゃん」が塀の上から顔を出し、電車で訪れる人を迎えています。つまり、入口で人を迎えるという置き場所の考え方は、町の規模でも生きているのです。
常滑の招き猫が育ってきた歴史や、産地ならではの姿は別の記事でまとめました。
招き猫研究所が定義する置き場所・向き・方角
招き猫研究所では、招き猫を置く場所と向きの考え方を次のように定めています。
招き猫研究所の置き場所の定義
| 項目 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 置き場所 | 人と福が入ってくる入口(店先・玄関・受付)を基本とし、毎日目に入る場所に置く | 客と福を招く縁起物なので、人が入ってくる場所が基本になる |
| 向き | 手招きが、入ってくる人から見える向きに置く | 招き猫は人を招く姿なので、招かれる人から手招きが見えることを大切にする |
| 方角 | 方角に吉凶はない | 方角の吉凶は家相・風水という別の考え方であり、研究所の定義では問わない |
この定義は、色・持ち物の定義とあわせて招き猫研究所 資料室の「招き猫研究所の定義」にまとめています。
店先・玄関・会社など場所別の置き方
場所ごとの置き方は、その場所に誰が入ってくるかで考えると整理できます。ここからは要点だけをまとめ、内側と外側の違いや部屋ごとの置き方は、それぞれの記事に譲ります。
店先は客を招く昔からの置き場所
店先は、招き猫がもっとも古くから置かれてきた場所です。客商売の店にとって、入口で客を迎える招き猫は、商いの願いを形にした存在でした。
観光庁の解説文によれば、左足を上げた招き猫は人を招くとされ、千客万来を願う業種で好まれています。そのため店先では、客を招く左手の招き猫が多く選ばれてきました。
なお、招き猫の起こりを、天明年間(1781〜89年)に江戸・両国にあった「金猫銀猫」という店に求める説もあります。金銀に彩った招き猫を店頭に飾ったという日本大百科全書の記述で、店先と招き猫の結びつきの古さを伝える説の一つです。
開業のときに招き猫を迎える考え方や、選ぶときの目安は別の記事で扱っています。
玄関は家の入口として選ばれる
家で招き猫を置くなら、最初の候補になるのが玄関です。店の入口に置く風習を家に当てはめると、人と福が入ってくる場所は玄関にあたります。
ただし、家の玄関に招き猫を置く作法を定めた記述は、辞典や寺社の公式には見当たりません。家相では玄関そのものの位置を気にかけ、北東の「鬼門」に玄関を設けるのを避けてきました。
これは家の間取りの話で、招き猫の置き方を決めたものではありません。そのため玄関では、出入りのたびに目に入り、落ちる心配のない靴箱の上や棚を選べば十分でしょう。
玄関の内側と外側のどちらに置くかや、玄関での向きの考え方は、玄関の記事で詳しく紹介しました。
会社や事務所は商いの場として
会社や事務所は、店先と同じ「商いの場」として招き猫が置かれる場所です。辞典が記す「客商売の家で飾る」という使われ方の延長にあたります。
民俗学者の島村恭則氏は研究所の取材で、会社を起こすと神棚などが急に欲しくなる人が多いと語りました。見えない不安を、場所とモノに預けたいという気持ちが、商いの場の縁起物を支えているのでしょう。
常滑の梅月冨本人形園の取材でも、周年記念や就任祝いといった節目に招き猫が手渡されてきたという話が出ました。そのため、来客を迎える受付なども、店先と同じ考え方で選べる場所といえます。
部屋ごとの置き方や、会社に合う手と色の選び方は、会社の記事にまとめています。
リビングや棚には暮らしの縁起物として
リビングや棚に置く招き猫には、決まった作法がありません。入口のように「誰を迎えるか」で考える場所ではないため、暮らしに合わせて自由に飾れます。
瀬戸のフジコウセラミックは研究所の取材で、招き猫のあり方はもっと自由であってよいと語りました。飾る人がいてもいい、意味より形に惹かれてもいいというのが、つくり手の考えです。
とはいえ、置く場所の広さと招き猫の大きさが合っていないと、落ち着いて飾れません。置き場所を先に決めてから、その棚に収まる大きさを選ぶと失敗が少なくなります。
インテリアとしての飾り方と、置き場所に合わせたサイズの選び方は、それぞれの記事が参考になるはずです。
棚や玄関に置くなら、場所に収まる大きさも一体を選ぶ理由になります。「Luxen Maneki」は、招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所のブランドです。その花筏は、高さ9cm・幅5cm・奥行5cmの瀬戸焼の招き猫です。
招き猫の置き方と左右
「招き猫の置き方の左右」には、上げている手の左右と、置く位置の左右の2つの意味があります。手の左右には言い伝えがある一方、置く位置の左右を定めた決まりは確認できません。
上げている手の左右と置き場所
右手を上げた招き猫はお金を、左手を上げた招き猫は人を招くといわれています。日本招猫倶楽部、梅月冨本人形園、観光庁の解説文が、そろってこの分け方を紹介しました。
上げている手と置き場所の目安
| 上げている手 | 招くといわれるもの | 置き場所の目安 |
|---|---|---|
| 右手 | お金・金運 | 家や会社など、金運を願う場所 |
| 左手 | 人・客 | 店先など、客を迎えたい場所 |
もっとも、愛知県図書館が百科事典や民俗辞典を調べたところ、左右のご利益についての記述は見つかりませんでした。手の左右は、学問の定説ではなく語り継がれてきた言い伝えです。
寺社によって左右の意味が入れ替わる例や、左右の意味が生まれた背景は、右手と左手の記事で詳しく取り上げています。
置く位置の左右と向き
招き猫を入口の左右どちらに置くかを定めた決まりは、確認できません。研究所が確かめた豪徳寺や窯元の公式説明には、置く位置の左右や向きの記述がありませんでした。
ほかの縁起物と比べると、この違いがよくわかります。雛人形の右大臣・左大臣という名前は内裏から見た方向で、並べる人から見ると、右側にいるのが左大臣です。
五月人形でも、弓を向かって左、太刀を右に置くと吉徳が案内しています。人形には宮中の並びという基準があり、「誰から見た左右か」まで決められているのです。
それに対して招き猫は、庶民の店先で広まった縁起物で、宮中のしきたりのような基準を持ちません。だからこそ左右で迷ったら、手招きの姿が入ってくる人から見える向きに置くのが自然でしょう。
方角と風水での置き場所の考え方
方角の考え方は、招き猫の伝承ではなく家相と風水から来ています。どちらも住まいの位置や向きから吉凶を見る考え方で、招き猫が生まれる前から日本で受け継がれてきました。
方角の考え方は家相と風水から来ている
家相は、家の位置や方角、構造から住む人の吉凶を判断する考え方です。デジタル大辞泉は、中国から伝わった陰陽五行説にもとづく俗信と説明しています。
日本大百科全書などによれば、家相は古く都や寺社の造営に用いられ、近世以降に一般の人々へ広まりました。風水も、山や川の様子と陰陽の気を見て住まいを選び定める、陰陽家の術の一つです。
一方、観光庁の解説文によれば、招き猫の置物が最初に登場したのは19世紀半ばと考えられています。
つまり、招き猫を置く方角の話は、もとからあった家相や風水の考え方を招き猫に当てはめたものと考えられます。東西南北それぞれに込められる意味は、方角の記事で詳しく扱いました。
風水を取り入れるときの向き合い方
風水の方角は、決まりではなく楽しみ方の一つとして取り入れるのがよいでしょう。招き猫の色と方角を組み合わせる置き方も、風水の考え方として語られているものです。
あわせて、人形店の吉徳も、五月人形を飾る方角に特別な決まりはないと案内しています。北向きは縁起が悪いと気にする人もいるものの、よい・悪いというしきたりはないという説明です。
民俗学者の島村恭則氏は研究所の取材で、縁起物を飾ることを「生活の中にちょっとだけ直感を混ぜる」行為と表現しました。そのうえで、民俗学的にはすごく健全なバランスだと語っています。
つまり、方角を気にしすぎて飾れなくなるよりも、楽しめる範囲で取り入れるほうが、縁起物とのつきあい方としては自然です。風水の考え方にもとづく置き場所は、風水の記事にまとめています。
置き場所に迷ったときの決め方
置き場所に迷ったときは、寺社で授かった招き猫かどうかで分けて考えます。寺社の招き猫は寺社の教えを優先し、それ以外は願いと毎日目に入る場所で決めれば十分です。
寺社で授かった招き猫は寺社の教えに従う
寺社で授かった招き猫は、その寺社が伝える扱い方を優先しましょう。招き猫と縁の深い豪徳寺(東京都世田谷区)には、招福猫児(まねきねこ)がずらりと並ぶ奉納所があります。
寺の公式サイトには、奉納に決まりはないと書かれています。ただし、招福猫児に込めた願いが叶ったあとに奉納する人が多いようです。
豪徳寺の招福猫児は、小判を持たずに右手を上げています。人を招いてもたらすのは縁であり、その縁を生かすのはその人自身だという教えからです。
授かった招き猫を家のどこに置くか迷ったら、寺社の授与所で尋ねるのが確かでしょう。豪徳寺の招き猫の由来や授かり方は、別の記事で紹介しています。
願いと毎日目に入る場所で決める
寺社の招き猫でなければ、願い→手と色→場所の順に決めると迷いません。客を招きたいなら左手を店先へ、金運を願うなら右手を家や会社へ、という組み合わせが基本です。
色については、研究所の定義では白・三毛が開運招福、黒が厄除けの色です。願いに合う色を選んだら、その招き猫が毎日目に入る場所を置き場所にします。
招き猫は、置いた瞬間よりも、目にするたびに願いを思い出させてくれる縁起物です。とはいえ、目に入る場所に置いても、効果が約束されるわけではありません。
色ごとの意味や、縁起物を置く人の気持ちを民俗学から読み解いた取材は、次の記事で読めます。
よくある質問
Q. 招き猫はいつ置くとよいですか?
A. 招き猫を置く時期に決まりはありません。世界大百科事典には、正月に招き猫を求め、店の入口に据える習わしがあったと記されています。開業や引っ越し、新年など、気持ちを新たにする節目に迎えて置くと、願いを込めやすいでしょう。
Q. 招き猫を外に置いてもよいですか?
A. 外に置くこと自体に決まりはなく、常滑の「とこなめ招き猫通り」では陶製の招き猫が屋外に並んでいます。ただし、張り子や彩色の繊細な招き猫は雨や日差しで傷みやすいため、家庭では屋根のある場所や室内に置くと長く飾れます。
Q. 招き猫を置いてはいけない場所はありますか?
A. 寺社や産地の公式に、置いてはいけない場所を定めた決まりは見当たりません。気をつけたいのは、陶器が落ちて割れやすい不安定な場所や、ほこりがたまりやすい場所です。手入れしやすく、毎日目に入る場所を選ぶとよいでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
置き場所に決まりが少ないからこそ、どんな一体を迎えるかが、毎日目にする風景を左右します。とはいえ、置き場所に正解がないなら、何を基準に一体を選べばよいのか迷う人もいるでしょう。
招き猫研究所がつくる「Luxen Maneki」は、六古窯のひとつである瀬戸焼の招き猫です。伝統窯の職人が一体ずつ手描きで金彩を施し、注文を受けてから約4〜6週間かけて仕上げています。
お届けには特製の桐箱を用いています。桐は湿気を吸って吐き、燃えにくいことから、昔は金庫の内箱にも使われてきた木です。
まとめ
招き猫の置き場所の基本は、客と福が入ってくる入口です。辞典には江戸時代から店先に置かれてきたと記され、家なら玄関、会社なら来客を迎える場所がその考え方を受け継いでいます。
一方で、方角や置く位置の左右は、家相や風水の考え方から来たもので、寺社や産地の決まりではありません。寺社で授かった招き猫は、その寺社の教えを優先しましょう。
迷ったときは、願い→手と色→毎日目に入る場所の順に決めると、自分の家や店に合う置き場所が見つかります。目にするたびに願いを思い出せる場所こそが、その招き猫の居場所になるでしょう。











