この記事でわかること
- 窯元は、陶磁器を窯で焼いて作り出す所と、その作り手のこと
- 招き猫は、型づくり・焼成・絵付けを産地で分け合って作られる
- 窯元の仕事は、目やひげの筆づかいと焼き上がりに表れる
- 産地の直売所や陶器市で、窯元の招き猫に出会える
招き猫の窯元とは、招き猫を窯で焼いて作り出す工房と、そこで働く作り手のことです。店先に並ぶ一体の裏には、型を作る人、焼く人、顔を描く人の仕事が重なっています。
同じ招き猫なのに、顔つきや白さが少しずつ違うのはなぜだろう、と感じた人もいるでしょう。窯元の仕事を知ると、その違いが作り手の判断から生まれていることがわかります。
この記事では、研究所が取材した瀬戸と常滑の窯元の話を軸にまとめました。あわせて、辞典や産地の公式情報をもとに、窯元に出会える場所も紹介します。
招き猫の窯元とは
招き猫の窯元は、一つの工房だけで完結するとは限らない仕事の集まりです。言葉の意味と、産地での仕事の分け方を押さえておきましょう。
招き猫の窯元の要点
- 窯元は、陶磁器を窯で焼いて作り出す所、またはその作り手
- 招き猫は、成形・焼成・絵付け・検品などの工程を経て仕上がる
- 産地では、素地を作る人と絵付けをする人が分かれることも多い
陶磁器を窯で焼いて作り出す所
窯元とは、デジタル大辞泉によると陶磁器を窯で焼いて生み出す場所や、その作り手を指す言葉です。招き猫の場合も、泥を型に流して形を作り、窯で焼いてから顔を描く工房がこれにあたります。
招き猫づくりの主な工程
| 工程 | 内容 | 取材で聞いた例 |
|---|---|---|
| 成形 | 液状の粘土を石膏型に流し込み、形を作る | 常滑の窯元は泥漿を型に流し、中を抜いて空洞にする |
| 焼成 | 窯で高温で焼き上げる | 瀬戸の窯元は約1350℃を目安に、人の目で温度を調整する |
| 絵付け | 目やひげ、柄を描く。転写や金付けを使うこともある | 常滑の窯元は目を入れる工程にもっとも神経を使う |
| 検品 | 傷や歪みを確かめる | 瀬戸の窯元はヒビ・欠け・歪みのある品を出荷しない |
もっとも、窯元の成り立ちはさまざまです。瀬戸のフジコウセラミックは、祖父の代に窯を持たない生地屋として始まり、父の代で窯を据えたと聞きました。
つまり、はじめから窯を備えた工房ばかりではなく、仕事をつなぎながら設備を整えてきた窯元もあるのです。「窯元」という一語の中に、それぞれの家の歩みが詰まっているといえるでしょう。
窯元の取材で聞いた話は、産地ごとの招き猫の違いとあわせて読むと理解が深まります。
産地で分け合う仕事
招き猫を含む焼き物の置物は、産地の中で工程を分け合いながら作られてきました。フジコウセラミックでは、かつて瀬戸で焼いた品の上絵付けを名古屋側が担い、港から出荷していた時代の話を聞いています。
ほかの産地にも、似た分業の歴史があるのです。九谷焼では江戸時代後期に、素地用と上絵用の窯が別々になりました。そこから専業の職人が育ったと、能美市九谷焼美術館は紹介しています。
伊万里・有田焼でも、各工程を腕の立つ職人が分担して作ることが大半だと、伝統的工芸品の解説は説明しています。そのため「どこの窯元の招き猫か」という問いには、素地と絵付けで答えが分かれる場合もあるのです。
あわせて、寺社で授かる招き猫の中にも、窯元が作るものがあります。梅月冨本人形園では、コロナ禍で観光が止まった時期に、神社仏閣向けの注文も大きく落ち込んだと伺いました。
このように招き猫は、焼き物の産地が量産を担ってきた縁起物といえるでしょう。
研究所が取材した窯元と作り手
研究所はこれまでに、瀬戸と常滑の窯元を訪ねてきました。それぞれの現場で聞いた話から、窯元の仕事を具体的に紹介します。
瀬戸のフジコウセラミック
フジコウセラミックは、焼成と検品を自分たちの目で守る瀬戸の窯元です。焼成を担う藤井さんは、窯の温度を約1350℃に向けて、人の目で上がり方を見ながら合わせていると話していました。
温度は高めにとり、白くきれいに焼き上げることを優先しているそうです。焼成だけでも最低4〜5日はかかるため、注文が増えても順番を守り、割り込みは受けないと伺いました。
検品の基準は、碍子(がいし:電線を支える絶縁用の焼き物)の製造で培ったものです。ヒビや欠け、歪みがあれば通さず、1ロットを丸ごと作り直すこともあるといいます。
一方で、同じ型から生まれても一体ごとに表情はわずかに異なります。藤井さんはその差を不ぞろいではなく、人の手が加わったしるしだと考えていました。
常滑の梅月冨本人形園
梅月冨本人形園は、三代にわたって招き猫を作り続けてきた常滑の窯元です。冨本さんの祖父の代に招き猫が仕事の中心になり、昭和25年ごろまでに、今に続く丸い目と二頭身の姿ができあがったそうです。
冨本さんは、自分たちの招き猫を「120%手作り」と表現していました。100%の手作りは職人として当然で、残りの20%は一体ごとに込める愛情だという意味です。
工房で働くスタッフは8人で、目を描き表情を決める工程を任せられる人も育ってきました。だからこそ、増産の相談があっても、機械化や海外での生産は選ばないと決めているそうです。
たくさん作るより、きちんと作るという順番は、取材の間ずっと揺らぎませんでした。常滑の窯元の仕事と冨本さんの言葉は、インタビュー記事で読めるでしょう。
窯元の招き猫の見方
窯元の招き猫を選ぶときは、顔の筆づかいと、作り手や産地の表示を確かめるのが基本です。取材で聞いた話をもとに、見るべき点を整理します。
顔と焼き上がりを見る
窯元の招き猫は、目とひげの一筆で表情が変わるため、顔を見比べて選ぶのが近道です。梅月冨本人形園の冨本さんは、型が同じでも同じ顔の招き猫は一体もないと話していました。
目の大きさや輪郭、左右のわずかな釣り合いで、招き猫の印象は大きく変わります。中には、以前一緒に暮らした猫の面影を見つけて、その一体に決める人もいるといいます。
あわせて、焼き上がりの肌も見ておきましょう。瀬戸の窯元が出荷前に通さないのは、ヒビや欠け、歪みのある品でした。
一方で、表情のわずかな違いは傷ではなく、手作りの味わいです。傷は避け、表情の差は好みで選ぶと考えると迷いにくくなります。
置物としての選び方は、陶器と磁器の扱い方とあわせて別の記事で解説しています。
作り手と産地の表示を確かめる
窯元の招き猫を探すなら、作り手の名前と産地の表示を確かめましょう。日本招猫倶楽部によれば、招き猫は国内だけでなく海外でも多く作られています。
あわせて、素地を焼く場所と絵付けをする場所が違う招き猫もあります。表示に産地が一つだけ書かれていても、工程のすべてがその土地とは限らないのです。
伝統的工芸品の九谷焼のように、名乗るための条件が決まっている産地もあります。九谷焼の場合は、手描きの絵付けと九谷五彩を使うことが条件の一つです。
迷ったときは、売り場で「どこで焼き、どこで絵付けをしたのか」を尋ねてみてください。工程の場所まで答えられる売り手なら、安心して迎えられるでしょう。
作り手と工程が見える招き猫を選びたいとき、候補の一つになるのが「Luxen Maneki」でしょう。
瀬戸焼の招き猫として展開しているのは、招き猫研究所を運営する会社、日本招き猫総合研究所です。伝統窯の職人が金彩を手で描き、受注のたびに一点ずつ仕上げる作り方です。
窯元に出会える場所
窯元の招き猫には、産地の直売所や組合の売り場、窯元が集まる市で出会えます。ここに挙げた時間や日程は、2026年10月時点の公式情報にもとづいています。
産地の直売所と組合の売り場
窯元の品を手に取るなら、産地の観光協会や組合が案内する売り場から探すのが確かです。主な場所を表にまとめました。
窯元の品に出会える主な売り場(2026年10月時点)
| 場所 | 産地 | 特徴 |
|---|---|---|
| 梅月冨本人形園 | 愛知県常滑市 | 常滑系の招き猫の窯元。9:00〜12:00、13:00〜17:00(土日祝・GW・お盆・年末年始休み) |
| 瀬戸蔵セラミックプラザ | 愛知県瀬戸市 | 瀬戸の窯元組合が直接販売する売り場 |
| 九谷陶芸村 | 石川県能美市 | 九谷焼の会社のショールームが並ぶ |
| 伊万里鍋島焼会館 | 佐賀県伊万里市 | 大川内山の各窯元の代表的な焼き物を展示販売 |
週末に常滑を訪ねるなら、同園の休業日にあたるため、観光案内所などで同園の招き猫を探す方法もあります。常滑市観光協会は、同園の招き猫を扱う場所として観光案内所などを紹介しています。
ただし、瀬戸や九谷、伊万里の売り場は器が中心で、招き猫を常に置いているとは限りません。そのため、目当ての招き猫がある場合は、出かける前に問い合わせておくと安心です。
常滑で招き猫に出会える場所は、常滑焼の記事で詳しく紹介しました。
窯元が集まる祭りと市
一度に多くの作り手に会うなら、窯元や作家が店を出す祭りや市が機会になります。年に一度の催しが多いため、日程を確かめて計画しましょう。
窯元や作家が集まる主な催し(2026年10月時点)
| 催し | 開催日 | 窯元と出会えるポイント |
|---|---|---|
| 来る福招き猫まつり in 瀬戸 | 2027年9月25日・26日(予定) | 招き猫の作家100人による創作招き猫の展示 |
| 九谷陶芸村まつり(秋の茶碗まつり) | 2026年10月17日・18日 | 能美市の九谷陶芸村に32店が出店(2026年度) |
| 有田陶器市 | 毎年4月29日〜5月5日 | 有田町内一円に窯元や販売店が並ぶ |
| 鍋島藩窯 窯元市 | 毎年4月29日〜5月5日 | 伊万里・大川内山の29の窯元が一堂に会する |
出典:愛知県公式観光サイト Aichi Now「第31回 来る福招き猫まつり in 瀬戸」
出典:瀬戸市まるっとミュージアム・観光協会「第32回 来る福招き猫まつりin瀬戸(2027年)」
出典:石川県陶磁器商工業協同組合「九谷陶芸村まつり(秋の茶碗まつり)2026」
出典:有田観光協会 ありたさんぽ「イベント」
出典:伊万里鍋島焼協同組合「鍋島藩窯 窯元市」
表のうち、招き猫が主役になるのは瀬戸の祭りだけです。公募で選ばれた作家の招き猫が並ぶため、窯元の型ものとは違う、作家ごとの表現に触れられます。
一方で器が中心の市でも、窯元と直接話せるのは大きな利点です。招き猫の取り扱いや作り方を、その場で尋ねてみるとよいでしょう。
専門店や通販で探す場合の比べ方は、買い方の記事にまとめました。
よくある質問
Q. 招き猫の焼き物はありますか?
A. あります。瀬戸焼や九谷焼、有田焼の磁器、常滑焼の陶器など、招き猫は各地の焼き物で作られてきました。江戸の今戸焼のように、素焼きにした土に色を塗った土人形の招き猫もあります。素材によって肌の質感や重さが異なるのです。
Q. 窯元や産地で絵付け体験はできますか?
A. できる場所があります。能美市九谷焼美術館の体験館では、白い器に九谷焼の絵具で描く体験が用意されています。内容や予約の方法は、各施設の案内で確かめてください。
Q. 招き猫の名産地はどこですか?
A. 愛知県の瀬戸と常滑が、県の観光サイトで招き猫の二大産地と紹介されています。瀬戸は磁器の招き猫を明治から作り、常滑は二頭身の招き猫を全国に広めました。石川県の九谷焼や東京の今戸焼なども、招き猫の産地として知られています。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
窯元の仕事を知ると、招き猫は焼く人や描く人の判断が重なって生まれるものだと実感できます。ただ、売り場の一体を前にして、その工程までたどるのは難しいと感じる人もいるでしょう。
研究所が手がける「Luxen Maneki」は、金彩を伝統窯の職人が一体ずつ手描きする、瀬戸焼の招き猫です。注文が入ってから一点ずつ作るため、手元に届くまでの目安は約4〜6週間となっています。
お届けには、特製の桐箱を使っています。桐は湿気の出入りを受け止め、燃えにくい木でもあることから、昔は金庫の内箱にも選ばれてきました。
まとめ
招き猫の窯元は、陶磁器を窯で焼いて作り出す工房とその作り手です。招き猫は、型づくりや焼成、絵付け、検品といった工程を、産地の中で分け合いながら仕上げられてきました。
窯元の招き猫を選ぶときは、目とひげの筆づかい、焼き上がりの肌、作り手と産地の表示を確かめましょう。わからない点は、売り場で工程の場所を尋ねるのが近道です。
産地の直売所や陶器市を訪ねれば、窯元と直接話せる機会もあります。作り手の顔が浮かぶ一体を迎えると、招き猫を見るたびにその仕事を思い出せるはずです。





