この記事でわかること
- 招き猫を店先に置く習わしは江戸時代に始まった
- 開業時に縁起物を求める人は多いと民俗学者は話す
- 客足を願うなら左手、売上を願うなら右手が目安
- 置き場所は店の入口で、寺社で授かる道もある
開業に招き猫を迎えるなら、客が最初に目にする店の入口が昔からの置き場所です。辞典は、猫の像を商店の店先に置く習わしが江戸時代に始まったと記しています。
店を開くときは、客足や資金繰りなど、先の見えない不安がつきものです。招き猫が開業の場で求められてきた理由と、手の選び方、寺社で授かる方法を整理しました。根拠には、辞典や寺社の公式サイト、研究所がおこなった取材を使いました。
開業と招き猫の結びつき
招き猫は、店を開く人が商いの願いを託してきた縁起物です。辞典の記述と、民俗学者への取材からその理由をたどります。
開業と招き猫の結びつき
- 猫の像を店先に置く習わしは江戸時代から続いている
- 起こりを江戸・両国の店に求める説もある
- 開業すると縁起物を求める人が多いと民俗学者は話す
江戸時代から店先に置かれてきた
店先に招き猫を置く習わしは、江戸時代にさかのぼります。旧版の世界大百科事典によれば、猫の像を商店の店先に置くのは江戸時代からのことです。
起こりについては諸説があります。日本大百科全書が紹介するのは、天明年間(1781〜89年)の両国の店「金猫銀猫」に起こりを求める説です。
その店が、金銀で彩った招き猫を店頭に飾ったのが始まりだといいます。その後は浅草の今戸で土製の招き猫が盛んに作られました。同じ事典によれば、招き猫は現在も飲食店などで喜ばれています。
つまり、新しく店を構える人が招き猫を迎えるのは、江戸から続く商いの習わしといえるでしょう。
招き猫の発祥をめぐる諸説と、江戸から現代までの歩みは、次の2本で詳しく扱っています。
開業の不安を預ける縁起物
店を開くときに縁起物を求める気持ちは、今も変わりません。研究所がインタビューした島村恭則氏(民俗学者)は、会社を立ち上げた人ほど神棚などを急に欲しがるものだと話していました。
島村氏が例に挙げたのは、大阪・生駒山の宝山寺でした。独立して商売を始めた人が山に登ってお札を受け、オフィスに神棚を設けて、月に一度の参拝を習慣にしていくそうです。
島村氏は、こうした行いを、目に見えない不安を場所やモノ、儀式に託すものととらえています。だからこそ開業の招き猫は、不安を預けて商いに向き合うための相棒として迎える意味があります。
縁起物に手を合わせる人の気持ちを、島村氏が民俗学から読み解いた話は、取材記事にまとめました。
開業時の招き猫の選び方
開業時の招き猫は、店の願いに合う手と、どこで迎えるかで選びます。店で買うなら公式の説明、寺社で授かるならその寺社の伝えが手がかりです。
店の願いで手を選ぶ
客を呼びたい店は左手、お金を呼びたい店は右手と考えるのが、作り手の説明どおりの選び方です。常滑の梅月冨本人形園も、愛好家団体の日本招猫倶楽部も、右手はお金、左手は人を招くと説明しています。
観光庁の多言語解説文でも、人を招く左の前足を上げた姿は、千客万来を求める商売で好まれるとされています。一方で、大阪の住吉大社のように右手の招福猫に商売発達を祈る寺社もあり、左右の受け止め方は一つではありません。
そのため、店で選ぶ一体は公式の説明、授かる一体は寺社の伝えを手がかりにしましょう。あわせて日本招猫倶楽部は、耳を越すほど手を上げた「手長」に、遠くの福や大きな福を招く意味を当てています。
左右の意味が分かれた背景と、手の高さの違いは、それぞれの記事にまとめました。
寺社で授かる招き猫
開業の招き猫は、寺社で授かる道もあります。住吉大社(大阪市)の「初辰(はったつ)まいり」は、月の初めの辰の日に参る習わしです。参拝者は境内の楠珺社(なんくんしゃ)で小さな招福猫を受けます。
偶数月は右手の猫で商売繁盛を、奇数月は左手の猫で家内安全を祈ります。48体そろうと一回り大きな猫と交換する習わしで、四十八辰を「始終発達」と読む縁起にちなむものです。
毎月通い続けること自体が、商いの願掛けになっているといえるでしょう。東京・世田谷の豪徳寺にも、商売繁盛や開運招福を願う人が参る招福殿があります。
ただし寺の説明では、招福猫児(まねきねこ)がもたらすのはあくまで縁で、それを生かせるかは本人しだいだといいます。授かり方や日程は変わることがあるため、2026年10月時点の案内として、参拝前に各寺社の公式サイトで確かめてください。
出典:住吉大社「初辰まいり」
出典:豪徳寺「豪徳寺と招き猫」
全国の招き猫ゆかりの寺社と、豪徳寺の招福猫児の授かり方は、こちらの2本にまとめました。
店で選ぶ一体なら、どこの誰が作ったのかも気になるところでしょう。招き猫研究所と同じく、株式会社日本招き猫総合研究所を運営母体とするブランドが「Luxen Maneki」です。
伝統窯の職人が金彩を筆で一体ずつ描き入れ、注文を受けてから仕上げています。
店での置き場所と迎え方
開業時の招き猫は、店の入口に置き、商いの節目ごとに向き合うのが昔からの迎え方です。辞典と寺社の説明から、置き場所と納め方を確かめます。
置き場所は店の入口
開業した店の招き猫は、客が出入りする入口の近くに置くのが基本です。改訂新版の世界大百科事典によると、正月に買った招き猫を店の入口に置く風もありました。
手招きのしぐさは、外から入ってくる客に向けたものです。そのため、入ってくる人から招く手が見える向きに置くと、招き猫の由来にかないます。
一方で、どう飾るべきかに特別な決まりはないというのが、日本招猫倶楽部の答えです。入口に置けない店なら、毎日目に入り、客からも見える場所を選ぶとよいでしょう。
店先や玄関など場所ごとの考え方と、手の向きと方角の関係は、次の記事で扱いました。
寺社の招き猫は納め方まで受け継ぐ
寺社で授かった招き猫は、納め方まで含めて寺社の作法に従います。豪徳寺では、奉納に決まりはないものの、招福猫児に込めた願いがかなったあとに奉納所へ納める人が多いそうです。
住吉大社の初辰まいりも、小さな猫を48体そろえて一回り大きな猫と交換する習わしです。さらに年月を重ねると、より大きな猫へと進んでいきます。どちらも、授かって終わりではなく、商いの歩みに合わせて招き猫と向き合う形です。
とはいえ、店で買った招き猫をいつどう手放すかは、辞典にも公式にも書かれていません。そのため、店で迎えた一体は、ほこりを払いながら店とともに年を重ねる相棒として飾り続けるとよいでしょう。
よくある質問
Q. 開業祝いにもらった招き猫はどこに置けばよいですか?
A. 店なら、客が出入りする入口の近くが辞典の記述にかなう置き場所です。日本招猫倶楽部も、飾る場所や作法を特に定めていません。事務所なら来客を迎える受付など、いつも目に付く場所を選んでもかまいません。上げた手が客から見える向きにすると、招き猫の姿にも合います。
Q. 開業時の招き猫は何色を選べばよいですか?
A. 開業専用の色を定めた公式の説明はありません。愛好家団体と窯元の公式説明では、白は開運招福や来福招福、金は金運、黒は厄除けの色です。店全体の福なら白、売上なら金、店を災いから守る願いなら黒が手がかりになるでしょう。手の意味と組み合わせて決めましょう。
Q. 開業の招き猫は自分で買ってもよいですか?
A. かまいません。世界大百科事典が記すように、招き猫は店の人が正月に買い求めて入口に置く縁起物でもありました。窯元や専門店で選ぶほか、住吉大社や豪徳寺のように寺社で授かる方法もあります。開業祝いにもらった招き猫と並べて飾ることを禁じる決まりも見当たりません。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
開業の日に迎えた招き猫は、何年も店先に立ち続ける一体になります。とはいえ開業の準備に追われる中で、作り手まで確かめて選ぶ余裕はないと感じる人もいるでしょう。
六古窯のひとつ、瀬戸焼の産地で研究所が手がけている招き猫が「Luxen Maneki」です。金・白・黒の3体があり、職人が受注ごとに一体ずつ金彩を描いて仕上げるため、届くまでの目安は約4〜6週間となります。
まとめ
開業に招き猫を迎えるなら、客が最初に目にする店の入口が昔からの置き場所です。猫の像を店先に置く習わしは江戸時代に始まり、正月に買い求めて入口に据える風もありました。
手は、人を呼びたいなら左手、お金を呼びたいなら右手を選ぶと公式の説明に沿います。寺社で授かる場合は、授かり方から納め方まで寺社の作法に従いましょう。
開業の不安を一人で抱えず、願いを託す相棒として一体を迎え、店とともに年を重ねていってください。








