この記事でわかること
- 招き猫は原型・型・成形・素焼き・絵付け・本焼きで作られる
- 型で形を写し、顔は筆で一体ずつ描き入れる
- 焼き物の産地などで、招き猫の絵付けを体験できる
- 形から作るなら、手びねりや張り子という方法がある
手作りの招き猫は、原型から型をとり、泥状の粘土で形をつくり、焼いて絵付けするという流れで生まれます。同じ型から作っても、顔を描く筆の一本で表情が変わるのが手作りの見どころです。
店に並ぶ招き猫は、どんな手順を経て、どこに人の手が入っているのでしょうか。
研究所が取材した常滑・瀬戸の窯元の話に、伝統的工芸品の解説や辞典を重ねて整理しました。作り方を知ったうえで、自分で絵付けする体験や、形から作る方法まで紹介します。
手作りの招き猫ができるまで
焼き物の招き猫は、形をつくる工程と、焼いて色をのせる工程に大きく分かれます。どの工程にも、職人が手と目で確かめる場面があるのです。
招き猫ができるまでの要点
- 原型をもとに石膏型をつくり、型で同じ形を写す
- 乾かして素焼きし、絵付けと釉薬を施して本焼きする
- 焼き物は工程を飛ばせないため、仕上がりまでに日数がかかる
招き猫づくりの主な工程
焼き物の招き猫づくりは、原型づくりから検品まで、いくつもの工程の積み重ねで成り立っています。順序や絵付けの時期は作り手によって違うものの、大まかな流れは次のとおりです。
焼き物の招き猫ができるまで
| 工程 | すること |
|---|---|
| 1. 原型 | 土や石膏で、招き猫のもとになる形をつくる |
| 2. 石膏型 | 原型から、成形に使う石膏の型をとる |
| 3. 成形 | 液状の粘土を型に流す、または粘土を型に押し当てて形をつくる |
| 4. 乾燥・素焼き | よく乾かし、釉薬をかける前に一度焼き締める |
| 5. 下絵付・施釉 | 素焼きの素地に絵を描き、釉薬をかける |
| 6. 本焼き | 高い温度で焼き上げる |
| 7. 上絵付 | 本焼きのあとに色や金を描き、低めの温度で焼き付ける |
| 8. 検品 | ヒビや欠け、歪みがないか確かめる |
表の5と7は、作品によってどちらか一方だけの場合もあります。瀬戸染付焼の解説でも、上絵付をしない作品は本焼きを終えた段階で完成とされていました。
一方で、どの工程も前の工程が終わらなければ始められません。つまり、手作りの招き猫は一つの工程も飛ばせない仕事の連なりなのです。
型で形を写す
招き猫の形は、原型からとった型で写すのが一般的な作り方です。原型とは、彫刻や鋳物のもとになる型を指し、土や石膏などで作ると辞典は説明しています。
常滑の梅月冨本人形園では、土と水、薬剤を混ぜた泥漿(でいしょう:液状の粘土)を石膏型に流し込みます。型に触れた外側から少しずつ固まったところで、中の泥漿を抜いて空洞にするそうです。
型を使う方法は、ほかにもあります。瀬戸染付焼の解説は、板状にした陶土を型に押しつける型打ち成形を紹介していました。
瀬戸のフジコウセラミックも、型に圧力をかけて流し込む方法など、複数の成形方法を手がけていると話しています。そのため、同じ招き猫の形でも、作り手ごとに型の使い方は違うのです。
焼いて色をのせる
形ができた招き猫は、素焼き・本焼き・上絵付と、温度を変えて何度か焼いて完成させます。素焼きは、釉薬をかける前にいったん焼き締める作業です。
この段階で一応の強さが出る一方、まだ水を吸うため、釉薬がかけやすい状態です。釉薬をかけたあとの焼成は、本焼きと呼ばれます。
瀬戸染付焼の場合、素焼きの素地に藍色の顔料である呉須(ごす)で絵を描き、釉薬をかけてから本焼きに進みます。焼成の最後に窯の中を高い温度に保ち、釉薬を落ち着かせる「ねらし」という工程もあるそうです。
さらに、下絵では出せない色や金銀を使う場合は、本焼きのあとに上絵付を施し、低めの温度で焼き直します。つまり、色の種類によっていつ描き、何度焼くかが変わるのです。
手作りの招き猫に日数がかかる理由
手作りの招き猫は、注文してすぐに届くものではありません。焼き物は形をつくったあと、乾かし、焼き、冷まし、検品するという手順を一つずつ踏む必要があるからです。
フジコウセラミックで焼成を受け持つ藤井さんは、焼き物を「明日できる」仕事ではないと表現していました。焼成だけでも数日を要し、どの工程を省いても品質に直結するといいます。
そのため同社では、注文が増えた時期でも順番を守り、飛び込みの割り込みは受けないと決めているそうです。
窯の温度も全自動に任せず、人の目で火の様子を見ながら調整しています。だからこそ、手作りの招き猫を注文するときは、届くまでの日数も作り方の一部と考えて待つとよいでしょう。
焼成と検品をめぐる藤井さんの判断の背景は、インタビューにまとめています。
手作りの招き猫の見どころ
手作りの招き猫を見るときは、型が決める形と、筆が決める顔を分けて眺めると違いがわかります。形は同じでも、顔には描いた人の手が残るためです。
型が決める形と、筆が決める顔
型で作る招き猫は、形がそろっていても、顔つきは一体ごとに異なります。常滑の梅月冨本人形園でも、完全に同じ顔の招き猫はないそうです。
違いを生むのは、目とひげを描く筆のわずかな差です。冨本さんがもっとも神経を使う工程も、目を入れる作業でした。
ほかの縁起物と比べると、目の扱いに招き猫の特徴が表れます。高崎だるまは昔、売り手が目を描き入れて渡していました。のちに、願をかける客が自ら目を入れるようにもなったそうです。
これに対して、取材した常滑の窯元では、目は作り手がもっとも気を配って描く部分でした。つまり、招き猫を選ぶことは、作り手が描いた表情を選ぶことでもあるのです。
常滑で三代にわたり招き猫を作ってきた窯元の話は、インタビューで詳しく読めます。
手描きと印刷の見分けにくさ
手描きの絵付けかどうかは、一体だけを見ても判断しにくいものです。瀬戸染付焼の職人は、印刷の技術が高くなり、手描きと見分けにくくなったことを悩みとして語っていました。
瀬戸染付焼の筆づかいには、輪郭を均一に描く「線書き」や、太い筆で中を塗る「ダミ」などの技法があります。好きな人には違いがわかるものの、慣れない人には区別が難しいといいます。
そのため、手に取って選べるなら、何体かを並べて顔の線を見比べるのが確かです。一方で、写真で選ぶ場合は、商品の説明に「手描き」とあるかを確かめましょう。
迷ったら売り場で絵付けの方法を尋ねると、納得して迎えられるはずです。
伝統証紙や仕上がりの見方など、工芸品の招き猫を選ぶ手がかりは、置物の選び方の記事で整理しました。
とはいえ、作り手の筆が見える招き猫を、通販で見分けるのは簡単ではありません。手描きであることを明らかにしている例のひとつが「Luxen Maneki」です。招き猫研究所と同じ会社、株式会社日本招き猫総合研究所で運営しているブランドです。
瀬戸焼の伝統窯で、職人が金の装飾を一体ごとに筆で描いています。
招き猫の絵付けを体験する
招き猫づくりのうち、もっとも気軽に体験できるのが絵付けです。焼き物の産地を中心に、絵付けの体験が各地で案内されています。
焼き付ける絵付けと描くだけの絵付け
絵付け体験を選ぶときは、描いた絵を焼き付けるかどうかを確かめましょう。辞典で「絵付け」は、陶磁器に絵模様を描いて焼き付けることを指します。
一方で、ペンなどで描くだけで焼き付けない体験もあります。焼き付けていない絵は焼き物の絵付けほど丈夫ではないため、扱い方を施設に確かめておきましょう。
これに対して瀬戸市の観光協会は、陶磁器専用の絵具を使う絵付け体験を紹介しています。呉須で描く瀬戸の伝統技法の「染付」や、鉄筆で表面を削って絵柄を出す「掻き落とし」などです。
つまり、その日のうちに飾りたいなら描くだけの体験、焼き物として残したいなら焼き付ける体験が向いています。申し込む前に、絵具の種類と受け取り方を確かめておくと安心です。
産地で絵付け体験を探す
焼き物の産地で体験したいなら、市や観光協会の観光サイトから探すのが確かです。瀬戸市の観光協会がまとめた「瀬戸焼モノづくり体験」の案内には、絵付け体験ができる場所がまとめられています。
とこなめ観光協会の観光サイト「とこなめ観光ナビ」でも、体験の一覧に陶芸・絵付け体験の施設が紹介されています。その中には、招き猫の絵付け体験をおこなう店もありました。
ただし、体験の内容や料金、予約の方法は施設ごとに異なります。招き猫の形の素地を使えるかどうかも含めて、各施設の案内で確かめてから出かけてください。
あわせて、瀬戸と常滑はどちらも招き猫の産地です。産地の歴史と、町で出会える招き猫を知ってから訪ねると、体験の一体に土地の物語が加わるでしょう。
形から招き猫を手作りする方法
絵付けだけでなく形から作りたいなら、手びねりと張り子が手がかりになります。どちらも、招き猫の産地や郷土玩具に受け継がれてきた作り方です。
手びねりで形からつくる
粘土から形を作るなら、ろくろを使わない手びねりが始めやすい方法です。瀬戸市の観光協会は、手びねりを、手で粘土をこねて形を作る焼き物の技法と紹介しています。
粘土を板や棒の形にしてから積み上げていく作り方が多く、形に制限がないのが特徴だそうです。丸い頭や上げた手といった招き猫の姿も、自分の手で形にできます。
しかも、手ひねり成形は常滑で焼き物づくりが始まった当初からの、もっとも古い成形方法とされています。伝統的工芸品の常滑焼でも、ろくろや押形と並ぶ成形の技法に数えられていました。
ただし、焼き物の招き猫は乾燥と焼成が必要なため、自宅だけで仕上げるのは難しいでしょう。そこで、作った招き猫をどこで焼くのかを、陶芸体験の施設に確かめてから申し込みましょう。
張り子で招き猫をつくる
焼かずに作るなら、紙を重ねて形にする張り子という方法もあります。日本国語大辞典によると、張り子とは、木型の上に紙を幾重にも張り、乾いたのちに型を抜き取ったものです。
招き猫にも、張り子で作られてきたものがあります。日本大百科全書によると、関東などでは張り子の招き猫が達磨市で売られ、主に農家が買い求めたといわれます。
カイコを食べるネズミを追い払う意味があったそうです。
つまり、張り子は招き猫の歴史の中で使われてきた素材です。型になるものを用意し、紙を重ねて乾かす手順を守れば、自分だけの一体を形にできるでしょう。
招き猫の作り手が工程ごとにどんな技を受け持っているのかは、職人の記事で詳しく扱いました。
よくある質問
Q. 招き猫の絵付け体験は予約が必要ですか?
A. 予約の要否は施設ごとに異なります。空き状況や所要時間も含め、出かける前に各施設の公式サイトで確かめてから申し込みましょう。
Q. 手作りの招き猫を注文すると、届くまでに時間がかかりますか?
A. 焼き物の招き猫は、成形・乾燥・焼成・冷却・検品の手順を省けないため、注文から届くまでに日数がかかることがあります。取材した瀬戸の窯元は、焼成だけでも数日かかると話していました。贈り物にする場合は、渡す日から逆算して早めに注文しましょう。
Q. 手作りの招き猫はどこで手に入りますか?
A. 産地の窯元や、招き猫を扱う専門店が主な入手先です。窯元や専門店では、作り手や絵付けの方法を直接尋ねられます。通販で選ぶ場合は、産地・作り手・手描きかどうかの表示を確かめると、手作りの一体を選びやすくなるでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
手作りの招き猫は、型で写した形に、職人が筆で表情を描き入れて生まれます。それでも、どこまでが手仕事なのかは、完成品だけを見てもわかりにくいと感じるかもしれません。
研究所が手がける「Luxen Maneki」も瀬戸焼で、伝統窯の職人が筆で金彩を描いています。注文を受けてから作り始める受注生産で、お届けまでの目安は約4〜6週間です。
白・金・黒の3色があり、届けるときは特製の桐箱に一体ずつ納めています。桐は湿度の変化をやわらげ、燃え進みにくいため、金庫の内箱に使われた時代もありました。作り方まで知ったうえで迎えたい人は、確かめてみてください。
まとめ
手作りの招き猫は、原型・型・成形・素焼き・絵付け・本焼きという工程を一つずつ重ねて作られます。型で形を写しても、顔は筆で一体ずつ描かれるため、同じ表情のものはありません。
自分で手を動かしたいなら、絵付け体験から始めるとよいでしょう。焼き付けるかどうかで仕上がりが変わるため、申し込む前に絵具と受け取り方を確かめてください。
形から作りたい人は、焼成の扱いを確かめたうえでの手びねりの体験や、紙で作る張り子が手がかりになります。作る手順を知ると、店で出会う招き猫の見え方も変わるはずです。







