この記事でわかること
- 猫の片手上げは顔洗い・狩りの名残・痛みが主な理由
- 同じ前足を上げ続けるなら動物病院に相談する
- 招き猫の形には顔を洗う猫の言い伝えが重なる
- 猫の利き手と招き猫の左右の意味は別の話
猫が招き猫のように片手を上げるのは、前足で顔を洗う毛づくろいや、獲物を打つ狩りの名残が主な理由です。ただし同じ前足ばかり上げているときは、痛みをかばっている場合もあります。
本物の猫のしぐさは、置物の招き猫が生まれる前から客の訪れの前ぶれとして語られてきました。獣医師や大学の資料で猫の行動を確かめたうえで、招き猫の形とのつながりを研究所の資料から整理します。
猫が招き猫ポーズをする理由の早見表
猫が前足を片方だけ上げる場面は、毛づくろい・狩りや遊び・痛みの3つに分けると見分けやすくなります。どれに当たるかは、上げている時間の長さと、そのあとの動きで判断できるでしょう。
片手を上げる場面は3つに分かれる
招き猫のポーズに見える瞬間の多くは、毛づくろいか狩りの途中で前足が止まった姿です。獣医師や動物病院、大学の資料をもとに、3つの場面を表にまとめました。
猫が片手を上げる主な場面
| 場面 | 見え方 | 理由 | 気にかける点 |
|---|---|---|---|
| 毛づくろい | 前足をなめてから顔や耳をこする | 唾液で顔の毛並みを整える | 毛が抜けるほどなめ続けていないか |
| 狩り・遊び | おもちゃや虫の前で身構え、前足を出す | 前足で獲物を打つ狩りの動き | 遊びの最後に「捕まえる」まで終われたか |
| 痛み | 同じ前足を浮かせたまま歩く・座る | 捻挫や骨折、関節炎などをかばう | 上げ続ける、足をつかない、腫れがある |
表の上の2つは、猫が毎日くり返す自然な行動です。一方で3つ目は、前足のけがや病気が隠れている場合のサインになります。
つまり、一瞬だけ上げて次の動きに移るなら日常の行動と考えてよいでしょう。しばらく下ろさない、歩くときもかばうといった様子なら、痛みの可能性を先に疑うのが安全です。
顔を洗うしぐさは毛づくろいの一つ
猫が「顔を洗う」と呼ばれるしぐさは、水を使わずに毛並みを整える毛づくろいです。前足を上げて顔をこする姿が、招き猫の手招きによく似て見えます。
前足をなめて顔をこする手順
猫は顔を洗うときに前足をなめて唾液をつけ、その前足で顔をこすります。日本獣医生命科学大学で行動診療を担う獣医師の入交眞巳氏は、この顔洗いを「決まりきった行動」と説明しました。
どの猫も同じ方法と順番で顔を洗うため、複数の猫を飼うと動きがそろって見えるそうです。顔や耳のまわりは舌が届かないので、唾液をつけた前足をブラシの代わりに使うというわけです。
それに対して体の毛は、前足を使わずに舌で直接なめて整えます。猫の舌には小さな突起がびっしり並び、汚れや抜け毛を取りながら毛並みをそろえていきます。
食後や、くつろいでいる時間に顔洗いが始まることも多いでしょう。そのため、ごはんのあとに前足を上げていたら、口のまわりの汚れを落としていると見てよさそうです。
気持ちを落ち着かせる毛づくろい
毛づくろいは、猫が1日の中で狩りより長く時間を割く行動です。農場で放し飼いの猫の行動を調べた研究では、グルーミングが15%、狩りが14%を占めたと入交氏は紹介しています。
毛づくろいには、汚れを落とすだけでなく気持ちを静める働きもあります。米コーネル大学獣医学部の資料は、なめる行動が転位行動として猫を落ち着かせることがあると説明しました。
転位行動とは、不安や戸惑いを感じた場面で、別の行動に切り替えて気持ちを整えることです。引っ越しや同居する動物の増減など、暮らしの変化がきっかけになる場合もあります。
ただし、なめすぎて毛が抜けたり皮膚に傷ができたりしたら、ただの身だしなみではありません。かゆみや痛みのある場所をなめていることもあるため、脱毛や傷に気づいたら獣医師に相談しましょう。
獲物やおもちゃに前足を出すのは狩りの名残
おもちゃの前で片手を上げて止まる姿は、獲物に飛びかかる直前の構えです。家で暮らす猫にも、ネズミや鳥を捕ってきた祖先の狩りの動きが残っています。
身構えて前足で打つ狩りの流れ
猫の狩りは、忍び寄り、身構えて止まり、前足で打つという順が基本です。猫の健康と福祉に取り組む国際団体インターナショナル・キャット・ケアは、この流れを次のように説明しています。
- 体を低くして、頭を前に出したまま獲物に近づく
- 届く距離で止まり、体に力をためて身構える
- 短く走って跳び、片方か両方の前足で獲物を打つ
招き猫のポーズに見えるのは、2の身構えから3へ移る一瞬です。前足が浮いたまま止まって見えるので、手招きの形と重なるのでしょう。
家の中の遊びも、探す・忍び寄る・追う・飛びかかる・捕まえるという狩りの流れをなぞっています。入交氏も、猫じゃらしで遊ぶのは捕食や攻撃の延長にある行動だと話しました。
そこで遊ぶときは、最後に前足でおもちゃを捕まえられる形で終えると、猫が満足しやすくなります。光を追わせるだけの遊びは捕まえる場面がないため、仕上げはじゃらしなど手で押さえられる物にするとよいでしょう。
前足を上げたままなら痛みを疑う
同じ前足をずっと上げているときは、足をつくと痛むので浮かせている可能性があります。猫は痛みを声で訴えることが少ないため、飼い主が姿勢の変化から気づくことが大切です。
同じ前足ばかり上げるときに考えられること
長野県伊那市の伊那竜東動物病院は、同じ前足を上げる猫について、痛みをかばっている可能性を挙げています。病院のコラムで原因として示されたのは、次のような整形外科の病気です。
前足を上げる原因として挙げられる病気(獣医師監修の資料から)
| 原因 | 起こりやすい場面 | 見られる様子 |
|---|---|---|
| 捻挫・打撲 | 高い所からの落下など | 足を軽く引きずる、一部だけ腫れる |
| 骨折・脱臼 | 踏まれる、交通事故など | 足を地面につけない、触ると怒る |
| 関節炎 | 年を重ねた猫に多い | 前足を浮かせる、段差を嫌がる |
au損害保険の獣医師監修記事によると、前足を骨折した猫は地面に足をつけなくなるほど腫れることがあります。一方で捻挫は、室内で安静にしていると少しずつ腫れが引いていくそうです。
ただし、猫は全身が毛に覆われていて、どこを痛めたのか外から見分けにくい動物です。動物病院では触診とレントゲン検査を組み合わせて、上げている理由を確かめます。
動物病院に相談する目安
前足の様子が次のどれかに当てはまるなら、自己判断で様子を見ずに動物病院へ相談してください。どれも伊那竜東動物病院とau損害保険の獣医師監修記事が、受診を勧めている状態です。
- 同じ前足を上げたまま、なかなか下ろさない
- 足を地面につけない、または前足が腫れている
- 触ると怒る、動きたがらない、ひどく痛がる
- 痛がる様子に加えて、食欲が落ちている
- 軽く引きずる程度でも、数日たっても治らない
関節炎のように少しずつ進む病気は、放っておくと悪化するおそれがあると病院は説明しています。あわせて家では、段差を減らし、床に滑り止めを敷くと前足の負担を軽くできます。
なお、この節は診断ではなく受診を考える目安です。招き猫のようでかわいいと見守る前に、いつもと違う上げ方ではないかを一度確かめておくと安心でしょう。
招き猫の形と「顔を洗う猫」の言い伝え
猫が前足で顔をこする姿は、置物の招き猫よりずっと前から、客を呼ぶ前ぶれとして書き残されてきました。日本では同じしぐさが、天気を占う言い伝えにもなっています。
猫が顔を洗うと客が来るという唐の俗言
中国・唐の時代の随筆集である『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』続集の巻八は、客の訪れを猫の顔洗いで占う俗言を伝えています。原文は「俗言貓洗面過耳則客至」の一文です。
前足が耳を越えるまで顔を洗えば客が来る、と唐の人々の間で言われていたことがわかります。ただし、この一文は猫の性質を並べた段にあり、置物や像について述べた文ではありません。
猫の像を店先に置く習わしについて、世界大百科事典(旧版)はこの故事から起こったとする説を載せています。同じ話は関東に伝わると、豪徳寺で飼われた猫が恩を返す物語になった、というのが同書の説明です。
そのため研究所では、顔を洗う猫の俗言を招き猫の起こりを決める証拠ではなく、手招きに重ねられた説の一つとして扱います。伝説の全体像と発祥の諸説は、次の2本で詳しく整理しました。
耳を越すかどうかを見る日本の猫の天気予報
日本には、猫の顔洗いで天気を占う言い伝えもあります。入交氏によると、「手が耳を越したら雨」「耳の手前で止まれば晴れ」といわれてきました。
もっとも、日本気象協会のtenki.jpは、猫の顔洗いと雨を結ぶ正確な統計はないとしています。科学的な根拠のない言い伝えとして、楽しみながら眺めるのがよいでしょう。
興味深いのは、唐の俗言と日本の天気の言い伝えが、どちらも前足が耳を越すかどうかに目を向けている点です。招き猫でも、上げた手が耳より高いものを「手長」と呼び、耳を目印に手の高さを見分けています。
つまり、猫の前足と耳の位置は、昔から人がしぐさを読むときの物差しでした。ただし、言い伝えから招き猫の手の高さが生まれたと示す資料はないので、共通点として眺めるのが確かです。
手の高さの見分け方と、研究所の資料室にある言い伝えの用語解説は、次の2本で確かめられます。
招くしぐさに重ねられた福と怪しさ
前足を上げて人を招くしぐさは、福を呼ぶ姿にも、人を惑わす怪しい姿にも重ねられてきました。研究所の取材に応じた美術史学者の山本陽子氏は、猫のかわいさと縁起物としての働きは別の話ではないかと語っています。
また民俗学者の飯倉義之氏によると、江戸の歌舞伎の化け猫は、手を「猫招き」のように動かして人を操りました。同じ前足の動きが、舞台では怪しい力の表れとして演じられたのです。
一方で、形として残る早い招き猫が、今戸焼の「丸〆猫」です。座って片方の前足を上げた今戸人形で、嘉永5年(1852年)の江戸で売られ、流行した記録が残っています。
人物の姿を写しただるまに対して、招き猫は身近な動物が毎日見せるしぐさを形にしました。生きた猫の動きを読む文化が、福を招く置物の土台にあったといえるでしょう。
猫の利き手と招き猫の右手・左手
本物の猫にも、よく使う前足、つまり利き手があることがわかってきました。ただし猫の利き手と、招き猫が上げる手の意味は、分けて考える必要があります。
猫にも利き手はある
英国クイーンズ大学ベルファストの研究チームは2018年、飼い猫の多くに使う前足の偏りがあると発表しました。家で暮らす44匹の猫を観察し、餌に前足を伸ばすときや階段を下りるときの足の出し方を記録した研究です。
その結果、多くの猫で左右どちらかの前足に偏りが見られました。ただし偏りのある猫を集めても、右利きと左利きのどちらかに寄ることはありませんでした。
猫の前足の偏りを調べた研究の結果
| 調べた動作 | わかったこと |
|---|---|
| 餌に前足を伸ばす・階段を下りる・物をまたぐ | 多くの猫に左右どちらかへの偏りがある |
| 猫全体で見たとき | 右と左のどちらかに寄ることはない |
| オスとメスの違い | オスは左、メスは右を使う傾向 |
出典:McDowell, Wells, Hepper「Lateralization of spontaneous behaviours in the domestic cat」(Animal Behaviour、2018年)
ここからいえるのは、人のように右利きが多数を占める動物ではないということです。そのため、猫がどちらの手を上げるかに吉凶はないと考えてよいでしょう。
招き猫の右手・左手は研究所の定義で読む
招き猫の右手・左手の意味は、猫の利き手ではなく言い伝えと研究所の定義で読み解きます。右手と左手は、招き猫自身から見た左右で、正面から向き合うと逆に見える点に気をつけましょう。
研究所では、手の左右と高さが表す意味を以下の表のとおり定義しました。右手が金運、左手が人招きという向きは、古くから言われてきた言い伝えと同じです。
招き猫研究所が定義する手の意味
| 手 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 右手 | 金運(お金を招く) | 右手の手招きは、お金の巡りと商いの実りを呼び寄せる |
| 左手 | 人招き(客と縁を招く) | 左手の手招きは、客・仲間・良い出会いなど、人とのご縁を呼び寄せる |
| 両手 | お金と人の両方を招く | 右手と左手の願いを一体に重ねた姿。研究所では「お手上げ」とは読まない |
| 手長(上げた手が耳より高い) | 遠くの福・大きな福を招く | 高く伸ばした手は、まだ見ぬ遠くの客や大きな福まで呼び寄せる |
| 手短(上げた手が耳より低い) | 身近な福を招く | 顔のそばの手は、毎日の暮らしの中にある身近な福を呼び寄せる |
本物の猫がどちらの手を上げても、それは毛づくろいや狩りの動きです。招き猫を選ぶときは、託したい願いから右手か左手かを決めると迷いません。
願いに合わせて手を決めると、その姿で作られた一体を探したくなるかもしれません。招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所は、招き猫「Luxen Maneki」を手がけています。
右手・左手どちらのお姿でも作っており、左手は制作に時間がかかるためメールで受け付ける形です。
よくある質問
Q. 招き猫はなぜ猫なのですか?
A. ネズミを捕る猫は、暮らしに欠かせない動物でした。そこに、前足で顔を洗う猫を客の訪れと結ぶ言い伝えが重なったと考えられています。豪徳寺の猫が井伊直孝を招いた話など、寺の縁起も重なりました。一つの理由に決まるものではなく、複数の話が手招きの形に集まっています。
Q. 招き猫はどんなポーズをしていますか?
A. 座った姿で、片方の前足を上げて人を手招きするポーズです。上げる手は右・左・両手があり、耳より高く上げたものは手長、低いものは手短と呼ばれます。もう一方の前足に小判を抱えた姿も多く、手と持ち物の組み合わせで託す願いが変わります。
Q. 右手を上げた招き猫は、正面から見ると左の手ですか?
A. はい。招き猫の右手・左手は、置物の猫の側から見た左右です。向かい合って見ると、右手の招き猫は私たちから見て左にある手を上げています。写真や通販で選ぶときは取り違えやすいので、商品の説明でどちらの手かを確かめると安心です。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
前足をなめ、耳まで届くように顔をこする猫のしぐさは、千年以上前から福の前ぶれとして見つめられてきました。その姿を家に迎えるなら、しぐさの来歴まで話せる一体がほしくなりませんか。
猫の姿をした置物は数多く、どれを選べばよいか迷う人もいるでしょう。株式会社日本招き猫総合研究所が手がける「Luxen Maneki」は、六古窯の流れをくむ瀬戸焼で作る招き猫です。
金彩を手で描き入れるのは、伝統窯の職人たちです。注文ごとに一点ずつ作るため、お届けまで約4〜6週間をいただき、特製の桐箱に納めて送ります。
まとめ
猫が招き猫のように片手を上げるのは、前足で顔を洗う毛づくろいと、獲物を打つ狩りの名残が主な理由です。どちらも一瞬で次の動きに移る、猫にとって自然な行動にあたります。
ただし、同じ前足を上げ続ける、足をつかない、腫れや食欲の低下があるときは、痛みのサインかもしれません。様子を見続けずに、早めに動物病院へ相談してください。
置物の招き猫の形には、顔を洗う猫を客の前ぶれとみた唐の俗言などが重ねられてきました。猫の利き手に吉凶はないので、招き猫の手は託したい願いから選ぶと、本物の猫と招き猫の両方を楽しめます。





