この記事でわかること
- 風水でよくない・運気を吸い取る説は出典が見当たらない
- よくないといわれる置き方は、扱い方の注意として読める
- 猫は福を招く力と怪しい力の両方で語られてきた
- 民俗学では、縁起物は「念のため」の直感的な行為
招き猫が風水でよくない、運気を吸い取るといった説の根拠は、辞典にも寺社の公式にも見つかりません。インターネット上で語られる説の多くは、置き場所や扱い方への注意を、風水の言葉で言い換えたものです。
それでも、招き猫を見て少し怖いと感じる人がいるのはなぜでしょうか。日本では猫そのものが、福を招く力と人を化かす力の両方をもつ動物として語られてきました。
猫にまつわる日本の俗信を辞典でたどり、民俗学者への取材も交えて、俗説の背景と付き合い方をまとめました。
招き猫が風水でよくないといわれる説
招き猫が風水でよくないという話は、記事によって挙げる理由がばらばらです。まずは、よくいわれる説と、出典で確かめられることを分けて並べます。
風水でよくないといわれる説のポイント
- よくない・運気を吸い取る説は、辞典や寺社の公式に記述がない
- 理由として挙がるのは、置き場所と扱い方への注意
- 招き猫の飾り方に、決まった作法はないとされる
「よくない」「運気を吸い取る」説に出典は見当たらない
風水で招き猫がよくない、運気を吸い取るとする説は、研究所が調べた範囲では出典を確認できませんでした。上位の解説記事が挙げる理由は、置き場所と扱い方の2つにほぼ分かれます。
置き場所では、トイレなどの水回りや床、暗い部屋の隅が、よくない場所として挙げられていました。扱い方については、ほこりをかぶったまま置く、壊れたまま飾る、玄関に背を向けるといった例が並びます。
ところが、こうした説の出どころを示した記事は1つもありませんでした。辞典の「招き猫」「家相」の項目を引いても、招き猫が運気を吸い取るという記述は見当たりません。
よくいわれる説と、出典で確かめられること
| よくいわれる説 | 説の中身 | 出典で確かめられること |
|---|---|---|
| 風水でよくない場所がある | 水回り・床・暗い場所に置かない | 辞典の風水・家相の項目に、招き猫の置き場所の記述はない |
| 運気を吸い取る | 置き方しだいで運気が逃げる | 辞典・寺社の公式に記述はない |
| 背を向けると福が逃げる | 外に向けて置く | 向きの決まりを示した辞典・寺社の公式は見当たらない |
| 古い・壊れた招き猫はよくない | ほこりや破損を放っておかない | 手放す時期を定めた辞典・寺社の公式は見当たらない |
つまり、「よくない」説の中心は置き場所と扱い方にあり、招き猫そのものを避ける理由を示したものではありません。風水という考え方の出どころや、方角と色の組み合わせに出典がない点は、風水と置き場所の記事で詳しく扱いました。
「よくない」説は扱い方の注意として読める
よくないとされる置き方の多くは、縁起物を粗末にしないための注意として読めます。日本大百科全書は俗信を、予兆や占い、禁忌、まじないなどに分けて説明しています。
このうち禁忌は、してはいけないとされる事柄を伝える知識です。同じ事典は、禁忌が生まれる理由を、連想や経験、心理などに分けて整理しました。
一方で世界大百科事典は、俗信には人々の経験の積み重ねに立つものも多いと述べています。そのため、すべてを非科学的と片づけることはできないという立場です。
ほこりを払い、壊れたら直すという心がけも、縁起物を大切にする暮らしの知恵と考えれば無理がないでしょう。運気が吸い取られるかどうかとは別に、手入れをして飾ること自体に意味があるといえます。
なお日本招猫倶楽部は、招き猫の飾り方に特に決まりはないとしています。昔は少し高い場所に安置し、水などを供えていたようです。倶楽部が勧めるのは、手近な場所に置いて日ごろから目に入るようにする飾り方です。
店先や玄関、会社といった場所ごとの置き方と、その場所が選ばれてきた理由は、置き場所の記事で扱いました。
大切に扱うことが縁起物との付き合い方なら、迎えた一体をどう長く飾るかも気になるところです。「Luxen Maneki」は、招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所のブランドです。瀬戸焼の招き猫を、特製の桐箱に納めてお届けしています。
桐は湿気を吸って吐き、燃えにくいことから、昔は金庫の内箱にも使われてきた木です。
招き猫が怖いといわれる理由
招き猫を怖いと感じる背景には、猫という動物に向けられてきた畏れがあります。日本の猫は、福を招く存在であると同時に、化けて人を害する存在としても語られてきました。
猫は福を招く力と怪しい力の両方で語られてきた
日本の猫は、福をもたらす霊力と、人を化かす魔性の両方をもつと考えられてきました。世界大百科事典は、猫が恐れられた理由を、瞳の形が時と場所で変わることや、人目を避けるようなしぐさに求めています。
尾が裂けて化けるといわれた「猫股(ねこまた)」は、『明月記』や『徒然草』にも人を害するものとして登場します。猫又の伝承は各地に残り、怪談集や妖怪絵巻の題材にもなりました。
江戸の芝居では、お家騒動に化け猫のたたりをからめた「猫騒動物」が一つの系統になっています。また、埼玉県立久喜図書館の調査事例は『日本民俗事典』の記述を紹介しました。猫は、この世とは別の世界から来た使いのように見られていたといいます。
一方で、同じ世界大百科事典の「招き猫」の項目は、猫が人だけでなく福ももたらすと信じられたことを記しました。つまり、招き猫に感じる少しの怖さは、福を招く力と同じ根から生まれたものと読めます。
なお、西洋には黒猫が朝に道を横切ると不幸のしるしとする俗信がありました。対して日本の黒い招き猫は、厄除けの意味で選ばれてきた色です。
黒い招き猫が魔除けや厄除けの色として選ばれてきた背景は、黒の招き猫の記事で扱っています。
猫にまつわる日本と世界の言い伝え・迷信は、次の記事で詳しく紹介しています。
化け猫の伝説と招き猫が同じ寺社に残る例
怖い猫の話と福を招く猫の話は、同じ寺社に並んで伝わっていることがあります。徳島県阿南市のお松大権現は、その代表的な例です。
神社の由緒によれば、無念の死をとげたお松の愛猫が妖怪となり、仇の家にたたりをなしたと伝えられます。お松の話は「日本三大妖猫伝」に数えられる怪談です。
ところが境内には約1万体の招き猫が並び、いまは勝負ごとや合格を願う人が訪れる神社になっています。たたりを語られた猫が、願いを聞き届ける猫として祀られているわけです。
東京・世田谷の豪徳寺では、猫が彦根藩主の井伊直孝を手招きして寺に招き入れ、雷雨を避けさせたという縁起が伝わります。研究所の取材では、民俗学者の島村恭則氏が今戸焼の招き猫にまつわる説話を紹介しています。
いなくなった猫が飼い主の夢に現れ、自分の代わりに猫の人形が守りをすると告げて消えたという筋書きです。だからこそ、猫の怖さは「守り」の力の裏返しとして語られてきたと考えられます。
招き猫を祀る全国の寺社や、手招きの姿にまつわる伝説は、それぞれ別の記事で取り上げました。
招き猫のスピリチュアルな意味と民俗学の見方
招き猫のスピリチュアルな意味を、民俗学は人が見えないものに願いを託す仕組みとして読み解きます。研究所の取材に応じた島村恭則氏の見方から、俗説との付き合い方を考えます。
縁起物は「念のため」の直感的な行為
島村氏は、招き猫を置くことも熊手を買うことも、「念のため」の行為で直感的なものに留まると語りました。縁起物は、理由を問わずに受け取れる「直感のパッケージ」として働くという見方です。
たとえば「蛇の抜け殻を持つと金持ちになる」という言い伝えがあります。その裏には、水の神である蛇から、弁才天を弁財天と読み替える流れまで、長い意味の連なりがありました。
そうした由来を毎回説明する人はいないため、言い伝えは一句に縮めて手渡されてきました。島村氏は、この縮め方こそ縁起物が庶民の間で生き続けた理由だと述べています。
つまり、招き猫のスピリチュアルな意味は、由来を知らなくても願いを託せるところにあるといえるでしょう。一方で民俗学は、その縮められた意味を論理でほどいていく学問だと、島村氏は説明しました。
人が合理的でないものに手を合わせる理由を、島村氏が語った取材記事はこちらです。
不安をあおる説との付き合い方
運気を吸い取るといった、心をざわつかせる説は、出典があるかどうかを確かめてから受け止めましょう。島村氏は、縁起物を好む気持ちと陰謀論に深く入り込む状態の違いを、断絶ではなく程度の差だと語っています。
そのうえで陰謀論を、信じる力が暴走した状態と位置づけました。辞典でも、俗信のうち合理的な根拠がなく、暮らしに実害を及ぼすものを迷信と呼んで区別しています。
そのため、俗説で不安になったときは、手放すかどうかを迷う前に出どころをたどるのが一つの方法です。愛好家団体の日本招猫倶楽部は、招き猫が何よりもまず招くのは、自分を好きになってくれる人だと記しています。
だからこそ、好きで迎えた一体を楽しんで飾ることが、俗説に振り回されない付き合い方でしょう。
招き猫のご利益がどのように語られ、増えてきたのかは、ご利益の記事で整理しました。
よくある質問
Q. 招き猫を何体も置くのはよくないですか?
A. 何体も置くことをよくないとする記述は、研究所が確かめた辞典や寺社の公式には見当たりません。大阪の住吉大社では、毎月の初辰の日に招福猫を授かり、48体をそろえて一回り大きな猫と交換するならわしがあります。数よりも、毎日目に入る場所に飾れるかを基準に考えるとよいでしょう。
Q. 招き猫の顔が怖いと感じたらどうすればよいですか?
A. 招き猫の顔つきは産地や型によって異なるため、好みに合う型を探すのが一つの方法です。愛知県の観光サイトによれば、瀬戸系はすらりとした細身の姿、常滑系は小判を抱えた二頭身の姿です。実物を見比べて、親しみを感じる一体を選びましょう。
Q. 風水で招き猫を置いてはいけない方角はありますか?
A. 研究所が調べた辞典類に、招き猫を置いてはいけない方角を定めた記述はありません。日本で方角の吉凶として広まったのは家相で、家の位置や間取りを見る考え方です。招き猫は方角より、入口や毎日目に入る場所から考えるのがよいでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
俗説に左右されずに選ぶなら、どこで誰がどう作ったのかがわかる一体を迎えたいものです。とはいえ、置物の作り手まで気にしたことはないという人も多いでしょう。
招き猫研究所がつくる「Luxen Maneki」は、六古窯のひとつに数えられる瀬戸焼の招き猫です。金彩は伝統窯の職人が一体ごとに筆で描き入れ、受注から約4〜6週間をかけて仕上げます。
白の花筏・金の錦鯉・黒の浮世の3体を、コレクションのページで見比べられます。
まとめ
招き猫が風水でよくない、運気を吸い取るといった説は、辞典や寺社の公式に出典が見当たりません。よくないとされる置き方の多くは、縁起物を大切に扱うための注意として読めます。
招き猫を怖いと感じる背景には、猫を福を招く霊力と人を化かす魔性の両面で見てきた歴史があります。民俗学では、招き猫を置くことは「念のため」の直感的な行為と考えられてきました。
不安になる説に出会ったら出典を確かめ、好きで迎えた一体を目に入る場所で大切に飾りましょう。







