この記事でわかること
- 招き猫のご利益の出発点は、客と福を招く商売繁盛
- 金運や健康、恋愛のご利益は時代とともに加わった
- 養蚕のネズミ除けなど、土地ごとのご利益もあった
- 効果は保証されず、願いを形にして飾ることに意味がある
招き猫のご利益は、客と財宝を招く商売繁盛から始まり、金運・厄除け・健康・恋愛へと広がってきました。色ごとに願いが細かく分かれているのは、時代の求めに応じてご利益が加わってきたためです。
では、招き猫を飾って「効果があった」という声は、どう受け止めればよいのでしょうか。願い別のご利益と、それが語られてきた背景を知ると、自分の願いに合った招き猫の迎え方が見えてきます。
辞典と寺社・産地の公式情報を軸に、民俗学者への取材を加えてまとめています。
招き猫のご利益【願い別一覧】
招き猫のご利益は、上げた手と色によって願いを語り分ける形で伝えられてきました。まずは、ご利益の出発点と、願い別の一覧を確かめます。
招き猫のご利益のポイント
- 招き猫は、客や財宝を招く縁起物として客商売の家で飾られてきた
- 願いは右手・左手と色で分けられ、寺社ごとに独自のご利益もある
- だるまや熊手と違い、人を招く所作そのものを形にした縁起物
ご利益の出発点は客と福を招くこと
招き猫のご利益の出発点は、客や財宝を招くことです。辞典類はそろって、人を手招きする姿の猫の置物を、客商売の家で飾る縁起物と説明しています。
縁起物の多くは、社寺の参拝日や縁日に授けられたお守りの類が、商品として広まったものです。百科事典マイペディアは、熊手や招き猫、福達磨などが江戸中期から盛んになったと記しました。
ただし、縁起物ごとに福を招く理屈は異なります。世界大百科事典は、だるまを七転八起の故事から出世を約束するもの、熊手を霊をかき寄せるものと説明しています。
対して招き猫は、人を招く所作そのものを形にした縁起物です。だからこそ、客を呼びたい商いの場でまず求められてきたと考えられます。
だるまや熊手など、ほかの縁起物と並べたときの招き猫の立ち位置は、縁起物の記事で詳しく扱いました。
願い別のご利益一覧
願い別に見ると、招き猫のご利益は手・色・寺社の伝えの3つで語り分けられています。主なご利益と、それを伝えている出典を並べると次のとおりです。
招き猫の願い別のご利益
| 願い | 招き猫の姿 | 伝えている主な出典 |
|---|---|---|
| 商売繁盛・千客万来 | 左手を上げる | 日本招猫倶楽部・お松大権現 |
| 金運 | 右手を上げる・金色 | 日本招猫倶楽部 |
| 開運招福・家内安全 | 白 | 日本招猫倶楽部 |
| 厄除け | 黒 | 日本招猫倶楽部 |
| 健康長寿 | 赤 | 日本招猫倶楽部 |
| 恋愛 | ピンク | 日本招猫倶楽部 |
| 人との縁 | 右手を上げ、小判を持たない | 豪徳寺 |
| 勝負・合格 | ― | お松大権現 |
| 養蚕の守り(ネズミ除け) | ― | 日本大百科全書・新編埼玉県史 |
表のうち、手と色のご利益は、日本招猫倶楽部が一般に言われているものとして紹介しています。一方で豪徳寺やお松大権現のように、寺社の縁起にもとづく独自のご利益も伝わってきました。
そのため、招き猫のご利益は一つの正解を覚えるより、願いから選ぶものと考えると迷いません。
招き猫研究所が定義する色の意味
願いを色で選ぶときの目安として、研究所は色ごとのご利益を一つの定義にまとめました。招き猫研究所では、8色の意味を次のように定めています。
| 色 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 白・三毛 | 開運招福(どんな願いにも通じる基本の色) | 何色にも染まる白と、日本の猫らしい三毛は、願いを選ばずに福を招く基本の色 |
| 金 | 金運・仕事運 | 小判や黄金を思わせる金は、お金の巡りと、仕事や商いの実りを招く色 |
| 黒 | 厄除け | 夜の闇にも溶ける黒は、災いを寄せつけず、身と家を守る色 |
| 赤 | 病よけ | 古くから病を遠ざける色とされてきた赤は、病から身を守る色 |
| 緑 | 健康長寿 | 草木や若葉の色である緑は、いのちの勢いとすこやかさを表し、長く元気に過ごす願いを託す色 |
| ピンク | 恋愛成就 | 桜を思わせるやわらかなピンクは、恋心と良い出会いを招く色 |
| 黄 | 人望招福(人に慕われ、人が集まる運。いわゆる人気運) | 明るく人の目を引く黄は、人に慕われ、まわりに人が集まる運を招く色 |
| 青 | 学業向上(集中力・判断力の向上) | 澄んだ空や水を思わせる青は、心を落ち着かせ、学びに向かう集中と判断を支える色 |
研究所では、白・三毛を基本の色とし、金・黒・ピンクにお金と仕事、厄除け、恋愛の願いを分けました。
健康の願いは、古くから病を遠ざける色とされてきた赤を病よけに、草木や若葉の色である緑を健康長寿に分けています。黄には人望、青には学びへの集中を託しました。
ただし、この表は研究所が定めた価値基準で、ご利益を約束するものではありません。手や小判などの意味をさらに詳しく知りたい人は、意味の記事も確認してください。
願い別に見る招き猫のご利益
招き猫に託される願いには、それぞれ寺社の伝えや暮らしの事情という裏づけがあります。商売繁盛から養蚕の守りまで、願いごとの背景を知ると、選ぶときの手がかりになるでしょう。
商売繁盛と金運
商売繁盛と金運は、招き猫のご利益の中心にある願いです。日本招猫倶楽部によると、一般に左手を上げた猫は人やお客を、右手を上げた猫はお金を招くといわれています。
大阪の住吉大社では、この左右の違いを参拝のならわしに取り入れてきました。毎月はじめの辰の日に小さな招福猫を授かり、奇数月は左手、偶数月は右手の猫を求めます。
48体をそろえて神社に納めると、一回り大きな猫と交換してもらえる仕組みです。「四十八辰」と「始終発達」をかけた語呂で、商いが続くことへの願いが込められてきました。
だからこそ、客を呼びたいなら左手、お金を招きたいなら右手と、願いに合わせて手を選ぶのが基本の考え方です。商いの場で招き猫が好まれてきた理由と、金運とのつながりは、それぞれの記事で掘り下げました。
厄除けと健康
厄除けは黒の招き猫に託されてきた願いです。黒い招き猫が厄除けの意味で選ばれてきたことは、日本招猫倶楽部が紹介しています。
京都の檀王法林寺には、夜を守る神とされる主夜神(しゅやじん)の使いを黒猫とする伝えがあります。寺の説明では、主夜神は盗難や火災を防ぐ神として信仰されてきました。
あわせて寺は、江戸の中ごろから主夜神尊の名を刻んだ招き猫が作られてきたと伝えています。暗がりで目を光らせる猫の姿が、夜を守る神と重ねられたのではないかと、寺は推し量っています。
一方で赤は、日本招猫倶楽部が健康長寿の色に挙げました。研究所の定義では、赤を病よけ、緑を健康長寿と分けています。
赤には、疱瘡(天然痘)除けの色として病を遠ざける願いを託されてきた歴史があるためです。ただし、赤い招き猫が病除けのために作られたという記録は、研究所が調べた範囲では見つかっていません。
黒の厄除けや、赤と緑に託す健康の願いは、厄除けと健康運の記事で詳しく紹介しています。
恋愛と縁
恋愛のご利益はピンク、人との縁は豪徳寺の招福猫児(まねきねこ)に託されてきました。日本招猫倶楽部が挙げるピンクの意味も、恋愛成就です。
一方で東京・世田谷の豪徳寺は、招福猫児が招くのは人との「縁」だと伝えています。寺の説明によれば、招福猫児は縁を運んでくる存在で、福を直接授ける存在ではないといいます。
縁を生かせるかどうかはその人しだいです。報恩感謝の心をもつ人のもとに福は自然とやって来るという寺の教えが、小判を持たない姿の由来だといいます。恋愛も人との縁から始まると考えれば、縁を願う人に向いた一体です。
恋愛運の招き猫と、豪徳寺の縁起や授かり方は、次の記事にまとめました。
土地ごとに伝わるご利益
招き猫のご利益は、土地の暮らしによっても違いました。日本大百科全書は、張り子の招き猫が関東などの達磨市でも売られてきたと記しています。
それを買い求めたのは主に農家で、蚕の害となるネズミを追い払う意味があったとされます。埼玉県立久喜図書館の調査事例も、『新編埼玉県史』に養蚕家が猫の絵やお札をネズミよけに使ったとあることを紹介しました。
研究所が取材した民俗学者の島村恭則氏も、養蚕地帯の招き猫にはネズミを除け、蚕を守る役目が強く求められたと語っています。あわせて、徳島県阿南市のお松大権現には、勝負ごとや合格を願う人が多く訪れ、境内には約1万体の招き猫が奉納されています。
つまり、招き猫に託す願いは一つに決まっておらず、暮らしや土地に合わせて選ばれてきたのです。招き猫を祀る全国の寺社や、招き猫の歩みの全体像は次の記事で確かめられます。
願いを色で選ぶなら、その色をどんな技法で仕上げた一体かも、選ぶときの手がかりになります。「Luxen Maneki」は、招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所のブランドです。
瀬戸焼の伝統窯で、職人が金彩を手で描き入れた白・金・黒の3色をそろえています。
招き猫の効果と、ご利益が語られてきた背景
招き猫を飾って「効果があった」という声は多く見られますが、ご利益は保証されるものではありません。そのうえで、人が招き猫に願いを託し、効果を感じてきた理由を2つの面から考えます。
ご利益は人々の願いを映して増えてきた
招き猫のご利益は、人々の願いを映して増えてきました。とこなめ観光ナビも、招き猫の体の色にはさまざまな願いが込められ、今も進化していると紹介しています。
一方で日本招猫倶楽部は、宝くじの当選のようなご利益を目当てに招き猫を好きなわけではないと記しています。倶楽部が愛するのは、人の願いをかなえようと手を挙げ続けるけなげさだそうです。
つまり、効果があったかどうかより、願いを託せる存在であることが、招き猫が長く愛されてきた理由といえるでしょう。
「効果があった」と感じる仕組み
研究所の取材に応じた島村恭則氏は、縁起物を飾る行為を暮らしに少しだけ直感を混ぜることと表現しました。人は合理的に説明できない不安を、場所やモノ、儀式に預けてきたという見方です。
商売を始めた人が急に神棚を求めたり、酉の市で熊手を毎年大きくしたりするのも、その表れだといいます。そのうえで島村氏は、暮らしに直感を少し混ぜるこのあり方を、民俗学的にはとても健全なバランスだと評価しました。
縁起物と人の気持ちの関係は、島村氏への取材記事で詳しく読めます。
だからこそ、招き猫の効果は運が上がったかどうかではなく、願いを形にして毎日目にすることで感じられるものといえます。そのため迎えた招き猫は、入口や毎日目に入る場所に置くと、願いを思い出しやすくなるでしょう。
反対に、招き猫が運気を吸い取るという俗説がどこから来たのかは、別の記事でたどっています。
よくある質問
Q. 招き猫は縁起がよいものですか?
A. 招き猫は、辞典で縁起物の代表として挙げられる品です。デジタル大辞泉は、社寺や境内で参詣人に売られる縁起物の例として、だるまや酉の市の熊手と並べて招き猫を挙げています。縁起のよしあしを心配する必要はなく、願いを込めて飾ればよいでしょう。
Q. 願いがかなったら招き猫はどうすればよいですか?
A. 決まった作法はありませんが、寺社で授かった招き猫は、その寺社のならわしに従うとよいでしょう。豪徳寺では、願いがかなった後に招福猫児を奉納する人が多いようです。徳島のお松大権現には、借りた招き猫に1体を加えて2体で返す「勧請」というならわしがあります。
Q. 両手を上げた招き猫のご利益は何ですか?
A. 左右の手を両方上げた招き猫は、人とお金の両方を招く姿だとされてきました。迷う場合は、いちばん大切な願いに合わせて片手の招き猫を選ぶとよいでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
ご利益が人々の願いを映して増えてきたように、招き猫を迎える理由も人それぞれです。とはいえ、願いを託す一体だからこそ、どこで誰が作ったものかを確かめたいと考える人もいるでしょう。
招き猫研究所がつくる「Luxen Maneki」は、六古窯に数えられる瀬戸焼の招き猫です。伝統窯の職人が一体ずつ金彩を手描きで施し、受注生産で約4〜6週間をかけて仕上げています。
白の花筏、金の錦鯉、黒の浮世という3つの意匠があり、コレクションのページで並べて見比べられます。
まとめ
招き猫のご利益は、客や財宝を招く商売繁盛から始まりました。右手は金運、左手は客を招くといわれ、黒は厄除け、ピンクは恋愛と、願いは手と色で語り分けられています。
日本招猫倶楽部は赤を健康長寿の色としていますが、研究所の定義では赤は病よけ、緑は健康長寿です。
豪徳寺の縁、養蚕地帯のネズミ除け、お松大権現の勝負のように、寺社や土地に根ざしたご利益もあります。ご利益は保証されるものではないものの、願いを形にして毎日目にすることに、招き猫を飾る意味があるといえるでしょう。
自分の願いをひとつ決め、それに合う手と色の招き猫を、毎日目に入る場所に迎えましょう。













