この記事でわかること
- 玄関は、店先に置く習わしを家に当てはめた置き場所
- 内側・外側や向き、左右を定めた公式の決まりはない
- 庶民の家に玄関がつくられたのは明治以降のこと
- 玄関は避難の通り道なので、落ちない場所に置く
招き猫を玄関に置くのは、店先や店の入口に置いてきた習わしを家に当てはめた置き方です。辞典に記されているのは店の入口で、家の玄関での作法を定めた記述は見当たりません。
では、玄関の内側と外側、左右や向きは、どこまで気にすればよいのでしょうか。解説記事には「入って左」「外に向ける」などの説が並ぶものの、出典を示したものはほとんどありませんでした。
根拠の強さを知っておけば、説に迷わず自分の家に合う置き方を決められます。地震のときに避難の通り道となる、玄関ならではの注意点もまとめました。
招き猫を玄関に置く意味
招き猫を玄関に置く意味は、入口で人と福を迎えるという店先の考え方にあります。ただし庶民の家に玄関が広まったのは明治以降で、招き猫の歴史から見ると新しい置き場所です。
玄関に置く意味のポイント
- 辞典に記述があるのは「店先・店の入口」
- 家の玄関は、その考え方を当てはめた置き場所
- 庶民の家に玄関がつくられたのは明治以降
店先の習わしを家に当てはめた置き場所
招き猫の本来の置き場所は、店先や店の入口でした。世界大百科事典の旧版によれば、商店の店先に猫の像を置く習慣は江戸時代からあったといいます。
同じ事典の新しい版にも、正月に招き猫を買い求め、店の入口に据える風があったと書かれています。客が出入りする場所で、手招きの姿のまま客を迎えるのが、もとの使われ方です。
そのため家で置くなら、入口にあたる玄関が候補になります。一方で、家の玄関での置き方を記した辞典や寺社の公式の記述は、研究所が調べた範囲では見つかりませんでした。
つまり玄関は、「店の入口」の考え方を家に置き換えた場所と受け止めておくとよいでしょう。店先・会社・リビングなど、ほかの置き場所との違いは親記事で整理しています。
庶民の家に玄関ができたのは明治以降
江戸時代の庶民の家には、原則として玄関がありませんでした。玄関はもともと禅寺の方丈への入口を指す言葉で、近世には武家住宅の格式を示す入口になります。
世界大百科事典によれば、民家に玄関を設けることは原則として禁じられ、役人を迎える庄屋層などに限って許されました。日本大百科全書も、町屋では通り庭の入口の大戸から出入りしていたと説明しています。
庶民の住宅に玄関がつくられるようになったのは、明治になって禁令がなくなってからです。招き猫が江戸の町で生まれた約180年前、町人の家で入口の役目を担っていたのは店先や大戸でした。
だからこそ、家の玄関に招き猫を置くのは比較的新しい置き方と考えられます。昔から伝わる玄関の作法が見当たらないのも、玄関そのものが庶民の家では新しい場所だったためでしょう。
今では、新築や引っ越しの節目に招き猫を贈り、新しい家の玄関に迎えることもあります。研究所が取材した常滑の梅月冨本人形園や瀬戸のフジコウセラミックでも、新築祝いに招き猫が手渡されてきた話が語られました。
玄関での招き猫の置き方
玄関での置き方を調べると、内側か外側か、どちらを向けるか、左右のどちらかという3つの説に行き当たります。どれも寺社や産地の公式に決まりは見当たらないため、根拠の強さを知ったうえで選びましょう。
内側と外側は置きやすさで選ぶ
玄関の内側か外側かを定めた決まりは、確認できません。上位の解説記事でも、内側の靴箱の上をすすめるものと、外に置いて招く姿を見せるものに分かれていました。
ブリタニカ国際大百科事典は、玄関の半分ほどを水洗いできる土間とし、靴箱などを設けるつくりを説明しています。そのため内側なら、土間に直に置くより、一段高い靴箱の上や棚のほうが置きやすいでしょう。
一方で外に置くと、雨や日差しにさらされ、彩色や素材によっては傷みやすくなります。屋外に置くかどうかは、招き猫の素材と玄関まわりの環境を見て判断してください。
工芸史研究者の畑中英二氏は研究所の取材で、焼き物の縁起物のよさを「ちょっと汚れたら拭けばいいじゃないとか、外にでも出せるじゃないとか。」と語っています。一方で、素焼きに絵の具で描いた置物は水拭きができず、外にも置けないと畑中氏は話しました。外に置くなら、釉薬をかけて焼いた焼き物かどうかを確かめると判断しやすくなります。
迷ったときは、出入りのたびに目に入る内側の靴箱の上から考えると決めやすくなります。
向きは手招きの姿が見えるように
玄関でどちらに向けるかも、公式の決まりはありません。豪徳寺や常滑の窯元の公式説明を確かめても、置く向きを定めた記述は見当たりませんでした。
ほかの縁起物でも、玄関まわりの飾り方の由来ははっきりしないことがあります。たとえば門松には、2番目に長い竹を内側に置く「迎え飾り」と、外側に置く「出飾り」という呼び分けがあります。
ところが国立国会図書館が民俗学の資料などを通覧しても、この呼び分けの由来を解説した記述は見つかりませんでした。玄関の縁起物の向きには、記録に残らないまま語られてきた説も多いのです。
そのため招き猫は、外から入ってくる人に手招きの姿が見える向きに置くのが自然でしょう。手招きは入ってくる相手に向けた所作なので、その意味が伝わりやすくなります。
置く向きと置く方角の違いや、方角の考え方がどこから来たのかは、方角の記事で詳しく扱っています。
「入って左」は風水の説として語られる
玄関を入って左に置くという説は、出典を確認できませんでした。解説記事には「入って左は金運、右は恋愛運」のように、左右で願いを分ける説も見られます。
もっとも、家相で玄関について問われてきたのは、玄関そのものをどの方角に設けるかです。日本大百科全書は、北東を「鬼門」として忌み、門や玄関などの配置を避けてきたと説明しています。
つまり家相の決まりは家の間取りの話で、玄関の中で置物を左右どちらに置くかを定めたものではありません。左右で迷ったら、靴箱や棚の空いている側など、落ち着いて置ける側を選べば十分です。
風水の考え方の由来と置き場所への取り入れ方、上げている手の左右の意味は、それぞれ別の記事にまとめました。
招き猫研究所が定義する置き場所と向き
玄関に置くときの考え方として、招き猫研究所では置き場所・向き・方角を次のように定めています。
招き猫研究所の置き場所の定義
| 項目 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 置き場所 | 人と福が入ってくる入口(店先・玄関・受付)を基本とし、毎日目に入る場所に置く | 客と福を招く縁起物なので、人が入ってくる場所が基本になる |
| 向き | 手招きが、入ってくる人から見える向きに置く | 招き猫は人を招く姿なので、招かれる人から手招きが見えることを大切にする |
| 方角 | 方角に吉凶はない | 方角の吉凶は家相・風水という別の考え方であり、研究所の定義では問わない |
この定義は、色・持ち物の定義とあわせて招き猫研究所 資料室の「招き猫研究所の定義」にまとめています。
玄関ならではの置き方の注意点
玄関は家族が毎日出入りし、地震のときには避難の通り道にもなる場所です。縁起物として飾る前に、安全に置けるかどうかを確かめておきましょう。
避難の通り道をふさがない
玄関まわりには、倒れたり落ちたりしやすい物を置かないのが基本です。東京消防庁は、避難通路や出入口の周辺に、転倒や移動をしやすい家具類を置かないよう呼びかけています。
倒れた家具でドアが開かなくなったり、つまずいてけがをしたりして、避難の妨げになるおそれがあるためです。同庁のチェックリストにも、家具類の上に落下しやすい物を置かないという項目があります。
陶器の招き猫は、落ちて割れると破片が足元に散らばるでしょう。そのため靴箱の上なら奥のほうに置き、ドアの開け閉めで揺れる場所や、通り道にはみ出す場所は避けてください。
玄関の広さに合う大きさを選ぶ
置き場所の奥行きに収まる大きさを選ぶと、玄関の招き猫は安定します。ブリタニカ国際大百科事典は、玄関の広さを最小でも畳1枚ぐらいは必要としており、置ける場所は限られがちです。
靴箱の天板からはみ出すほど大きな招き猫は、出入りのときに体や荷物が当たりやすくなります。とはいえ小さすぎると目に入りにくく、手招きの姿が伝わりません。
贈られた一体を玄関に迎えるなら、先に靴箱の天板の幅と奥行きを測っておくと安心です。置き場所と願いの両面から考えるサイズの選び方は、別の記事で解説しています。
靴箱の上に収まる大きさを探しているなら、高さ9cmほどの一体も候補に入るでしょう。「Luxen Maneki」は、招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所のブランドです。その花筏は、高さ9cm・幅5cm・奥行5cmの瀬戸焼の招き猫として仕上げています。
よくある質問
Q. 玄関が北東(鬼門)にある家に招き猫を置いてもよいですか?
A. 置いてかまいません。家相では北東を鬼門として玄関の配置を避けてきました。ただしこれは間取りの考え方で、招き猫を置くことを禁じたものではありません。鬼門除けには稲荷を屋敷神として祀る習俗が知られる一方、招き猫を鬼門除けに置くという記述は辞典類に見当たりません。
Q. 玄関に置く招き猫は右手と左手のどちらがよいですか?
A. 来客や家族の縁を願うなら人を招く左手、暮らしの豊かさを願うなら金運を招く右手が、言い伝えに沿った選び方です。愛好家団体の日本招猫倶楽部も、右手は「お金」、左手は「人やお客」を招くと紹介しています。寺社で授かった招き猫は、その寺社の教えを優先しましょう。
Q. 玄関に置く招き猫は何色がよいですか?
A. 色にも決まりはなく、願いに合わせて選びます。日本招猫倶楽部によれば、白は開運招福や家内安全、黒は厄除開運の意味があるとされています。家族みんなの福を願うなら白や三毛、家を守る願いを込めるなら黒、という選び方ができるでしょう。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
玄関の招き猫は、家族や来客が毎日いちばん最初に目にする一体です。とはいえ置き方に決まりがないからこそ、どんな一体を迎えればよいのか迷う人もいるでしょう。
招き猫研究所がつくる「Luxen Maneki」は、六古窯のひとつに数えられる瀬戸焼の招き猫です。伝統窯の職人が金彩を一体ずつ手で描き入れ、受注生産で約4〜6週間かけて仕上げています。
お届けの際は、特製の桐箱に納めています。湿気を吸って吐き、燃えにくい性質から、桐は昔、金庫の内箱にも使われてきました。
まとめ
招き猫を玄関に置くのは、店先や店の入口に置いてきた習わしを家に当てはめた置き方です。庶民の家に玄関が広まったのは明治以降で、内側・外側や向き、左右を定めた公式の決まりは見当たりません。
置くときは、出入りのたびに目に入り、落ちる心配のない靴箱の上や棚を選びましょう。向きは、手招きの姿が入ってくる人から見えるようにすると、所作の意味が伝わります。
玄関は避難の通り道でもあるため、安全に置ける場所と大きさを確かめたうえで、願いに合う手と色の一体を迎えてください。







