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招き猫の歴史・文化

縁起物としての招き猫とは?だるまや福助との違いを解説

この記事でわかること

  • 招き猫は辞典で縁起物の代表例に挙げられている
  • 縁起物の多くは、社寺の縁日の授かり物に始まる
  • 招き猫は授与品・郷土玩具・縁起人形の顔を持つ
  • 熊手やだるまと違い、手放し方の決まりは少ない

招き猫は、辞典の「縁起物」の項目でだるまや熊手と並んで例に挙げられる、日本の代表的な縁起物です。寺社で授かる品でもあり、店先に置く縁起人形でもあるところに、ほかの縁起物にない特徴があります。

縁起物と一口にいっても、手に入れる場所や時期、手放し方はそれぞれ異なります。だるまや熊手、福助と並べると、招き猫が縁起物のなかでどんな位置にいるのかが見えてくるでしょう。

辞典の定義、寺社の公式情報、研究所の取材をもとに整理しました。招き猫の手や色ごとのご利益は、別の記事で扱っています。

縁起物とは

縁起物とは、縁起を祝うために求める品物のことです。言葉の成り立ちと、辞典がどんな品を例に挙げているかを押さえると、招き猫の位置づけがはっきりします。

縁起物と招き猫の要点

  • 「縁起」はもと仏教の言葉で、のちに吉凶の兆しも指すようになった
  • 辞典は縁起物の例に、だるま・招き猫・熊手を挙げている
  • 縁日で授けられた品が商品になり、広まったとされる

「縁起」と「縁起物」の意味

「縁起」は、もとは仏教の「因縁生起(いんねんしょうき)」を略した言葉です。デジタル大辞泉は、吉凶の前触れ、物事の起こり、社寺の由来などの意味を挙げています。

「縁起」の主な意味

意味例
仏教の考え方あらゆることは、因と縁が結びついて起こるという教え
社寺の由来寺社の始まりや霊験を記した「縁起」、縁起絵巻
吉凶の兆し「縁起がよい」「縁起を担ぐ」

世界大百科事典によると、社寺の由来を記したものを縁起と呼ぶことから、兆しの起こるわけも縁起というようになりました。そこから縁起のよしあしを気にする考え方が生まれ、よい縁起を形にした品が縁起物になったと説明しています。

つまり縁起物は、目に見えない吉凶の兆しを、手に取れる形にしたものといえるでしょう。同じ事典は、その多くが神社や寺院から授けられるものだとも記しています。

民俗学者の島村恭則氏は、研究所の取材に「縁起物を飾るのは、生活の中にちょっとだけ直感を混ぜる、という行為。」と語っています。理由を問わずに受け取れる「直感のパッケージ」として働く点に、縁起物の強さがあるという見方です。目に見えない兆しを形にした縁起物は、暮らしに置ける小さな直感ともいえるでしょう。

縁起物の代表例に挙がる招き猫

招き猫は、複数の辞典が縁起物の例として名前を挙げる品です。デジタル大辞泉が例に挙げるのは、参詣人に向けて社寺やその境内で売られる、だるまや招き猫、酉の市の熊手などです。

精選版日本国語大辞典も、正月のしめ飾りや門松のほか、社寺の縁日などで売るだるまや招き猫、酉の市の熊手を挙げました。百科事典マイペディアは、熊手・招き猫・福達磨・福助を一般的な縁起物の例としています。

マイペディアによると、これらは社寺の参拝日や縁日に配られた品が商品になったもので、江戸中期から盛んになりました。

民俗学者の飯倉義之氏は研究所の取材で、招き猫が全国に広まった道筋として、寺社参詣のお土産の力を挙げています。お土産を見た人が「なんかかわいいのがいるな、聞いたら招き猫っていう縁起物で」と気づき、自分も買い求めていったという見立てです。社寺の縁日で売られた品だったことは、招き猫が各地に知られるうえでも大きかったと考えられます。

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だからこそ招き猫は、縁起物を説明するときに真っ先に名前の出る定番の顔ぶれの一つです。辞典が定める招き猫そのものの定義や、由来の諸説は総合の記事で紹介しています。

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縁起物のなかの招き猫の位置

縁起物は、手に入れる場所と飾り方によって、いくつかの種類に分けられます。招き猫はそのうちの一つに収まらず、複数の種類にまたがっているのが特徴です。

授与品・郷土玩具・縁起人形の三つの顔

招き猫は、寺社の授与品、郷土玩具、店先の縁起人形という三つの顔を持つ縁起物です。辞典と寺社の説明を並べると、その広がりがわかります。

縁起物の種類と招き猫

種類主な例招き猫の例
寺社で授かる縁起物破魔矢、熊手、縁起だるま豪徳寺の招福猫児、住吉大社の招福猫
郷土玩具土人形、張り子、だるま今戸焼の土人形、達磨市で売られた張り子の招き猫
縁起人形福助、お多福店の入口や棚に置く招き猫
正月の縁起物しめ飾り、門松正月に求めて店の入口に置く習わし

郷土玩具について日本大百科全書は、寺社の祭礼や門前市で売られる縁起物が多いと説明しています。招き猫も、浅草の今戸では土製のものが作られ、関東では張り子のものが達磨市で売られていました。

一方で世界大百科事典は、正月に求めた招き猫を、店の入口に据える風習があったと伝えています。つまり招き猫は、授かる品、市で買う玩具、店に置く人形のどの顔でも親しまれてきたのです。

豪徳寺のように招き猫を授けている寺社と、それぞれの授かり方は、次の記事に地域別にまとめました。

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招き猫と福助、店先の縁起人形

店先に置かれてきた縁起人形には、招き猫と福助があります。福助は、頭が大きく、ちょんまげに裃(かみしも)姿で正座した男の人形で、幸福を招くといわれます。

招き猫と福助の比べ方

項目招き猫福助
かたどるもの前足を上げて人を招く猫頭の大きい、裃姿の男の人
由来とされる話豪徳寺など、寺社や土地の伝説長寿で幸運だった実在の人物を写したという説(異説もある)
飾られてきた場所店の入口、花街や飲食店店先などの棚

福助の由来について、日本大百科全書は実在の人物を写したという説を「疑わしい」と述べました。招き猫の伝説も史実として確かめられないため、どちらも由来は伝承として語られる人形です。

ただし、人をかたどった福助に対し、招き猫は動物のしぐさを形にしました。美術史学者の山本陽子氏は研究所の取材で、福助は頭が異様に大きい奇妙な姿だからこそ人気者になったと語っています。

山本氏は、猫も番犬や荷運びのように役立つ動物ではない点に、縁起物になった理由を探っています。そのため招き猫と福助は、ふつうと違う存在に福を託した人形として並べて見ると、共通点が見えてくるでしょう。

山本氏が縁起物の図像の読み方を語ったインタビューは、次の記事で読めます。

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熊手やだるまと比べた招き猫

熊手やだるまと比べると、招き猫は手放し方を寺社ごとの考えにゆだねる縁起物です。江戸で同じ客商売の人々に支えられた点では、熊手と共通しています。

迎える時期と手放し方の違い

熊手とだるまは、迎える日と、役目を終えたあとの扱い方を寺社が案内している縁起物です。一方で招き猫は、寺社によって考え方が異なります。

熊手・だるま・招き猫の迎え方と手放し方

縁起物迎える時期と場所願いの込め方・手放し方
熊手11月の酉の日の酉の市(鷲神社、長國寺など)翌年の酉の市に前年の熊手を納め所へ納め、新しいものを求める
だるま正月の七草大祭のだるま市(少林山達磨寺など)片方の目を入れて願をかけ、願いが叶うともう片方を入れる。寺で供養を受けられる
招き猫寺社によって異なる(豪徳寺は寺務所で授与。辞典は正月に求めて店の入口に置く風習も紹介)豪徳寺では、願いが叶ったあとに奉納所へ納める人が多い。決まりは特にない

長國寺の案内が呼びかけるのは、一年のあいだ福をかき込んでくれた熊手に感謝し、翌年の市で納めることです。少林山達磨寺は、一年を無事に過ごせたときや願いが叶ったときに、もう片方の目を入れると説明しています。

対して豪徳寺は、招福猫児を奉納する決まりは特にないとしています。だからこそ招き猫は、一年ごとに替える決まりに縛られない縁起物だといえるでしょう。

ただし住吉大社の初辰まいりのように、毎月授かる小さな招福猫を48体集めて納める習わしもあります。招き猫の手放し方は、授かった寺社の考え方に従うのが確かです。

豪徳寺で招福猫児を授かる方法と、納めるときの考え方は、次の記事で詳しく紹介しています。

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江戸の客商売が求めた熊手と招き猫

熊手と招き猫は、江戸で客商売の人々に好まれた縁起物という点で共通しています。世界大百科事典によると、江戸時代に酉の市の熊手を買ったのは、遊女屋や茶屋、料理屋、船宿、芝居に関わる人たちでした。

同じ事典によると、招き猫が花街や飲食店で好まれた背景には、芸者を「ネコ」と呼んだ呼び名もありました。客を集めて商売を盛り立てたいという願いが、二つの縁起物に重なっていたのです。

熊手と招き猫の共通点と違い

項目熊手招き猫
江戸で求めた人遊女屋・茶屋・料理屋・船宿・芝居の関係者花街や飲食店
込められた願い福や運をかき集める客や福を招き寄せる
形のもと落ち葉や穀物をかき集める道具手招きする猫のしぐさ

表のとおり、熊手は道具の働きに、招き猫は生きた猫のしぐさに願いを託しています。熊手を買うのも招き猫を置くのも、「念のため」の直感的な行為だと、島村恭則氏(民俗学者)は研究所の取材で話しました。

つまり縁起物は、理屈よりも気持ちのよりどころとして暮らしに置かれてきたものです。島村氏が縁起物と人の心の関係を語ったインタビューも、あわせて読むと理解が深まるでしょう。

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替える決まりのない縁起物だからこそ、長く手元に置ける一体を選びたいと考える人もいるでしょう。

株式会社日本招き猫総合研究所は、研究所の運営と並行して瀬戸焼の招き猫「Luxen Maneki」を手がけています。職人が金彩を手描きし、特製の桐箱に納めて届けています。

同じ猫の縁起物でも、日光東照宮の眠り猫は招き猫とは成り立ちが違います。違いは次の記事で紹介しています。

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よくある質問

Q. 招き猫の縁起の意味は何ですか?

A. 客や財宝を招くという縁起です。辞典は、前足を上げて人を招く姿から、客商売の家で飾られる縁起物と説明しています。手の左右や体の色、抱えた小判などにも、それぞれ願いが重ねられてきました。どの願いを託すかで、選ぶ一体が変わる縁起物です。

Q. 招き猫はどこに置くとよいですか?

A. 店では、入口に置く風習が伝えられています。世界大百科事典によると、正月に手に入れた招き猫を店の入口に飾る習わしがありました。家庭の玄関や方角についての考え方は諸説あるため、研究所では置き場所の記事で根拠とともに整理しました。

Q. 招き猫が両手をあげるのはよくないですか?

A. よくないという決まりはありません。両手を挙げた招き猫は、金運も客も招く姿とされています。一方で、「お手上げ」の姿に見えるとして避ける人もいます。気になる人は、片手を挙げた招き猫を選ぶとよいでしょう。

招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」

招き猫は、だるまや熊手と並ぶ縁起物でありながら、毎年納める決まりを持たない点に特徴があります。長く手元に置くことを考えると、作りの確かさが気になるのではないでしょうか。

研究所の運営会社が手がける「Luxen Maneki」は、六古窯の一つである瀬戸の窯で生まれる招き猫です。一体ごとに職人の手描きで金彩を施すため、注文から仕上がりまでには約4〜6週間の目安があります。

湿気を吸っては吐き、火が回りにくい桐は、金庫の内箱の材料に選ばれた時代もありました。その桐で作った特製の箱に一体ずつ納めてお届けします。

まとめ

招き猫は、辞典がだるまや熊手と並べて例に挙げる代表的な縁起物です。縁起物の多くは、社寺の縁日に授けられた品が商品となって広まったものです。

そのなかで招き猫は、授与品・郷土玩具・縁起人形の三つの顔を持ち、熊手のように毎年納める決まりも特にありません。

招き猫を迎えるときは、授かる寺社の考え方や、置く場所での役目を確かめておきましょう。長く手元に置く一体だからこそ、由来や作り手に目を向けると、招き猫と過ごす時間がより味わい深くなるはずです。