この記事でわかること
- 猫はネズミから経典や蚕を守り、福の動物とされた
- 船乗りは雄の三毛猫を航海の守りとして大切にした
- 黒猫は西洋で不吉、江戸や英国の一部では吉とされた
- 本物の猫の言い伝えと招き猫の色の意味は別の話
猫が縁起のいい動物とされてきたのは、ネズミから経典や蚕を守る働きがあったからです。柄では雄の三毛猫や黒猫に福の言い伝えが残る一方、同じ猫が不吉や怪しさと結びつけられた歴史もあります。
どの言い伝えがいつ、どこで語られたのかを知ると、縁起の良し悪しは時代と土地で変わることが見えてくるでしょう。辞典や博物館の資料、研究所が取材した民俗学者の話をもとに、本物の猫にまつわる言い伝えを整理しました。
猫は縁起がいい動物とされてきたのか

猫は、福を呼ぶ動物と、人を化かす怪しい動物の両方として語られてきました。どちらの顔が強く出るかは、猫が人の暮らしの中でどんな役目を負っていたかで変わります。
縁起がいい・悪いの言い伝え早見表
本物の猫にまつわる言い伝えは、同じ柄でも土地によって吉と凶が入れ替わります。辞典や博物館の資料で確かめられた主な言い伝えを、地域ごとに並べました。
本物の猫にまつわる主な言い伝え
| 言い伝え | 語られた地域・時代 | 見方 |
|---|---|---|
| 雄の三毛猫は航海を守る | 日本の船乗り(和船の時代) | 吉 |
| 黒猫を飼うと労咳が治る | 江戸時代の日本 | 吉 |
| 黒猫が道を横切ると幸運 | かつてのイギリス・ケンブリッジ州 | 吉 |
| 黒猫が朝に道を横切ると不幸 | ヨーロッパ | 凶 |
| 年を経た猫は猫又になる | 日本の各地 | 凶 |
| 葬式のときは猫を遠ざける | 日本の各地・中国 | 凶 |
表を見ると、黒猫は吉にも凶にも登場することに気づくはずです。一方で、三毛猫は日本の船乗りの間で、とりわけ雄が大切にされてきました。
だからこそ、ある柄を「縁起がいい」「悪い」と一言で決めつけることはできません。どの土地の、どの時代の言い伝えかを確かめてから受け止めるのが確かでしょう。
猫が神として祀られた理由や、全国の猫の神様は次の記事で紹介しています。
ネズミから経典と蚕を守った猫
猫が福の動物と見られるようになった土台には、ネズミを捕る働きがありました。民俗学者の飯倉義之氏が研究所に語ったところでは、寺では仏教の経典をかじるネズミを防ぐために猫が飼われました。
宝にも等しい経典を守る猫には、福を守るというよい印象が重ねられたというのが飯倉氏の見方です。やがて農村で養蚕が広まると、蚕に近づくネズミを追う猫もまた、福をもたらす動物とみなされていったといいます。
あわせて民俗学者の島村恭則氏も研究所の取材に、養蚕の盛んな群馬や福島の招き猫について語りました。
そこでは商売繁盛よりも、ネズミを遠ざけて蚕を守る役目が強かったそうです。宮城県丸森町に今も数多く立つ猫碑は、養蚕を守る神としても、飼い猫の供養のためにも建てられました。
つまり縁起のいい猫の始まりは、毛色や姿よりも、暮らしを支えた働きへの感謝にあったといえるでしょう。置物の招き猫について世界大百科事典も、猫が福をもたらす霊力をもつと信じられたと記しています。
福と怪しさをあわせ持つ猫
猫は福の動物であると同時に、化ける動物としても恐れられてきました。飯倉氏の説明では、家の中と外を自由に出入りする動物ほど、化けたり人を化かしたりすると考えられやすいそうです。
そのうえ日本大百科全書によると、年を経た猫は尾が二つに割れて「猫又」になるといわれてきました。『徒然草』にも猫又の話が登場し、近世には鍋島家・有馬家の猫騒動が評判を呼んでいます。
とはいえ同じ辞典は、貧乏寺の飼い猫が不思議な力で檀家を増やし、恩を返す昔話「猫檀家」も紹介しました。怪しい力が、寺を栄えさせる福の力として語られることもあったわけです。
研究所が話を聞いた美術史学者の山本陽子氏も、かわいいから縁起物になったとは限らないと指摘しています。福も魔も、人の思惑を超えた力をもつ動物と見られたからこそ生まれた言い伝えといえます。
縁起がいいとされる猫の柄
柄の言い伝えでとくに多く残るのは、三毛猫、なかでも雄の三毛猫です。一方で、言い伝えの中で嫌われた柄もあり、柄と吉凶の結びつきは一様ではありません。
雄の三毛猫は航海の守り
海で働く人々は、雄の三毛猫を船旅の守り神として珍重しました。世界大百科事典の説明では、雄の三毛猫は天候を前もって知るといわれ、和船の時代に高値で取引されたそうです。
同じ言い伝えは日本大百科全書にも、舟乗りが大事にした猫として載っています。嵐を前もって知らせてくれる猫がいれば、海に出る人にとって心強い仲間だったはずです。
ただし同じ辞典は、「とくに三毛ネコに怪談が多い」とも書いています。三毛猫は、怪しい話の主役にも、船の守りにもなった柄でした。
山形県高畠町の猫の宮には、大蛇から村を守ったと伝わる三毛猫「玉」がまつられています。三毛猫は、船の上でも村でも、守りの役目と結びつけて語られてきたのです。
雄の三毛猫が珍しい理由
雄の三毛猫がめったにいないのは、オレンジの毛の遺伝子がX染色体に乗っているからです。オレンジと黒の毛を両方もつにはX染色体が2本必要で、ふつうの雄はX染色体を1本しかもちません。
科学技術振興機構(JST)のサイエンスポータルは、三毛猫とサビ猫は主に雌しかいないと紹介しました。三毛やサビのまだら模様を決める仕組みは、1961年に英国の学者が唱えたものです。
そのため雄の三毛猫が生まれるのは、性染色体がXXYになった猫など、ごくまれな場合だけです。めったに生まれないことが、船乗りの間で高い値がついた背景にあったと考えられます。
性染色体の組み合わせと模様の関係は、招き猫の種類と三毛の意味をまとめた記事で、表を使って説明しています。
ハチワレやサビ猫の見られ方
額の模様が鼻筋で左右に分かれたハチワレは、古くは飼うのを嫌われることが多かった柄です。デジタル大辞泉は、犬や猫のハチワレについて、昔は飼うのを忌むことが多かったと記しています。
ただし現代では、ハチワレも多くの家で家族として迎えられています。昔の見方は、あくまでその時代の俗信と考えておけば十分です。
一方のサビ猫は、黒と茶の毛がまだらに混じる柄で、三毛猫と同じく雄がほとんどいません。つまり柄の吉凶は、毛色の珍しさや時代の好みで移り変わってきたものです。
そのため、柄を理由に猫を選んだり避けたりする必要はありません。その猫自身との相性で迎えるのが何よりでしょう。
黒猫は不吉か福猫か

黒猫は、国と時代によって、不吉の象徴にも幸運のしるしにもなってきた猫です。日本では江戸時代に病を治す猫とされ、イギリスでも幸運と結びつける土地がありました。
ヨーロッパで黒猫が不吉とされた背景
ヨーロッパで黒猫が嫌われた背景には、猫を魔女と結びつける妖術信仰があります。日本大百科全書の解説では、とりわけ黒い猫が魔性をもつと見られ、魔女の化けた姿や手下だと考えられました。
世界大百科事典も、暗がりで光る目や足音のしない歩き方が、猫を魔的な動物に見せたと説明しました。そこから、朝の道を黒猫が横切れば不幸が来るという俗信が生まれています。
同じ辞典によると、黒猫の夢も凶とされ、そんなときは三度つばを吐いたり石を投げたりしたそうです。それに対して飯倉氏は、魔女は猫を使うから猫は魔物だという見方が、猫をかわいがる妨げになったと語っています。
ただし、ヨーロッパ全体が黒猫を一様に嫌ったわけではありません。同じヨーロッパでも、黒猫を幸運とした土地があります。
江戸とイギリスで黒猫が吉とされた例
日本では、黒猫を飼うと労咳(肺結核)が治るという俗信が江戸時代にありました。精選版日本国語大辞典によれば、黒猫は恋の病にも効き目があるといわれたそうです。
一方でイギリスにも、黒猫を幸運と結びつける言い伝えが残ります。ケンブリッジ博物館は、かつてのケンブリッジ州では、黒猫が道を横切ると幸運と考えられたと紹介しました。
あわせてロンドンのサイエンス・ミュージアムは、黒猫のお守りを収蔵しています。第一次世界大戦(1914〜1918年)の兵士が身につけたものです。塹壕の危険から身を守ってくれると信じ、兵士は黒猫を幸運のしるしとして持ち歩いたそうです。
地域ごとの黒猫の見方
| 地域・時代 | 黒猫の見方 | 主な言い伝え |
|---|---|---|
| ヨーロッパ | 凶 | 魔女の使い魔。朝に道を横切ると不幸 |
| イギリスの一部 | 吉 | 道を横切ると幸運。兵士のお守り |
| 江戸時代の日本 | 吉 | 飼うと労咳や恋の病に効く |
こうして並べると、黒猫の吉凶は黒という色そのものではなく、その土地の信仰で決まってきたことがわかるでしょう。黒猫を不吉とみるのは、言い伝えの一つにすぎないのです。
黒猫を守りの使いとする寺の伝え
日本には、黒猫を人を導き、夜を守る存在として伝える寺もあるのです。東京都新宿区の自性院には、合戦の夜に迷った太田道灌を黒猫が案内した話が残り、その猫を供養する猫地蔵がまつられています。
京都の檀王法林寺は、夜を守る神に仕えるのが黒猫だと伝えています。この神は主夜神尊(しゅやじんそん)と呼ばれ、寺の黒い招福猫もこの神にちなむ授与品です。闇夜に目を光らせる黒猫が、盗難や火災から守る神と結びついたと考えられるでしょう。
つまりどちらも、ヨーロッパの俗信とは反対に、黒猫が人を救い、守る側に立っています。黒猫ゆかりの寺を訪ねると、日本で黒猫がどう見られてきたかを肌で感じられるはずです。
日本と世界の猫にまつわる迷信
猫の迷信には、来客や天気を占うものと、猫を粗末にしないよう戒めるものの二つの系統があります。どちらも、猫のしぐさや性質をよく見ていた人々が生んだ言い伝えです。
身づくろいは来客と天気のしるし
猫の身づくろいを客が来る前ぶれとみる言い伝えは、東洋にも西洋にもあります。唐代の中国で書かれた『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』にも、顔を洗う前足が耳を越えれば客が来る、という俗言が見えるのです。
一方の西洋については、世界大百科事典が次のような俗信を紹介しています。
- 猫が身づくろいをすると来客がある
- 顔を洗うと女の客、背中をこすると男の客が来る
- 体をきれいにしたり、草を食べたりすると雨になる
- 水を飲むと雪が降る
日本でも、猫が顔を洗うと雨になるという天気の言い伝えが知られています。ただし、猫の顔洗いと雨を結ぶ統計はないとされるため、猫のしぐさを楽しむ昔の知恵として眺めるのがよいでしょう。
猫が前足で顔を洗う理由と、招き猫の形とのつながりは、次の記事で詳しく整理しました。
眠っている猫を彫った日光東照宮の眠り猫と、その意味は次の記事で紹介しています。
葬式や殺生をめぐる猫の禁忌
縁起が悪い側の言い伝えで多いのは、死者と猫を近づけない禁忌です。日本大百科全書は、葬式の際に猫を遠ざける風習が全国的にみられると記しています。
亡きがらの上に刃物を置くのは、猫が火車(かしゃ)となって風雨を起こし、棺を空へ巻き上げるのを防ぐためといわれました。世界大百科事典によると、中国にも瀕死の病人や死者に猫を近づけるなという、日本と同じ禁忌があります。
また、猫を殺すと不幸が起こるという俗信が西洋にあり、中国でも黒猫を殺すとたたるといわれました。どれも、猫を軽く扱ってはいけないという戒めとして読むことができます。
だからこそ、猫の迷信を怖がる必要はありません。猫を大切にする心を伝える言葉として受け止めると、言い伝えの見え方も変わるはずです。
招き猫をめぐる「よくない」とされる俗説と、その付き合い方は、次の記事で扱っています。
本物の猫の柄と招き猫の色の意味の違い

本物の猫の柄にまつわる言い伝えと、招き猫の色の意味は、成り立ちが異なる別の話です。招き猫の色の意味は、研究所が価値基準として定めています。
猫の言い伝えと招き猫の色を分けて読む
同じ三毛や黒でも、本物の猫と招き猫では託される願いが違います。両者を取り違えないよう、表で比べました。
本物の猫の言い伝えと招き猫の色の比較
| 柄・色 | 本物の猫の言い伝え | 招き猫での意味(研究所の定義) |
|---|---|---|
| 三毛 | 雄は航海の守り。怪談の主役にもなった | 開運招福 |
| 黒 | 西洋では不吉、江戸やイギリスの一部では吉 | 厄除け |
たとえば雄の三毛猫の航海の守りは、生きた猫の珍しさから生まれた話です。それに対して研究所は、招き猫の三毛を、性別とは関係なく願いを選ばない基本の色に置いています。
黒も同じで、西洋で黒猫が不吉とされたことは、黒い招き猫の意味には関係しません。招き猫の色は、願いから選ぶと考えると迷わないでしょう。
招き猫研究所が定義する色の意味
招き猫研究所では、招き猫の色に込める願いを次のように定めています。
| 色 | 招き猫研究所の定義 | 研究所の考え方 |
|---|---|---|
| 白・三毛 | 開運招福(どんな願いにも通じる基本の色) | 何色にも染まる白と、日本の猫らしい三毛は、願いを選ばずに福を招く基本の色 |
| 金 | 金運・仕事運 | 小判や黄金を思わせる金は、お金の巡りと、仕事や商いの実りを招く色 |
| 黒 | 厄除け | 夜の闇にも溶ける黒は、災いを寄せつけず、身と家を守る色 |
| 赤 | 病よけ | 古くから病を遠ざける色とされてきた赤は、病から身を守る色 |
| 緑 | 健康長寿 | 草木や若葉の色である緑は、いのちの勢いとすこやかさを表し、長く元気に過ごす願いを託す色 |
| ピンク | 恋愛成就 | 桜を思わせるやわらかなピンクは、恋心と良い出会いを招く色 |
| 黄 | 人望招福(人に慕われ、人が集まる運。いわゆる人気運) | 明るく人の目を引く黄は、人に慕われ、まわりに人が集まる運を招く色 |
| 青 | 学業向上(集中力・判断力の向上) | 澄んだ空や水を思わせる青は、心を落ち着かせ、学びに向かう集中と判断を支える色 |
なお、本物の猫に多い柄のうち、招き猫の色として定めているのは白・三毛・黒の3つです。これらは研究所の価値基準であり、願いがかなうと保証する表ではない点に気をつけましょう。
それでも、三毛と白は願いを選ばず、黒は身と家を守ると押さえておけば、柄選びの手がかりになります。色ごとの願いと、黒い招き猫の背景は次の2本で確かめられます。
本物の猫と招き猫の色を分けて考えると、願いに合う色で招き猫を選びたいと考える人もいるはずです。招き猫研究所を運営する株式会社日本招き猫総合研究所は、招き猫のブランド「Luxen Maneki」を手がけています。
白の花筏・金の錦鯉・黒の浮世の3柄はどれも、瀬戸焼の窯で職人が金彩を描いて仕上げた一体です。
よくある質問
Q. 黒猫の夢を見るのは縁起が悪いですか?
A. 世界大百科事典は、黒猫の夢を凶とする俗信をヨーロッパの例として紹介しています。ただし、これは西洋の一部の言い伝えです。日本では江戸時代に黒猫が病に効くとされ、黒猫を守りの使いとする寺もあります。夢の吉凶を気に病む必要はないでしょう。
Q. 猫のひげを切ると縁起が悪いのですか?
A. 西洋には、猫のひげを切るとネズミを捕らなくなるという俗信があります。縁起というより、ネズミを捕る猫の働きを惜しんだ言葉と読めます。ひげは猫が周りを感じ取る大切な器官なので、言い伝えにかかわらず切らないようにしましょう。
Q. 招き猫が三毛猫の柄で作られることが多いのはなぜですか?
A. 三毛は、日本の猫らしい柄として親しまれてきました。常滑の招き猫でも三毛は定番で、研究所は三毛を白と並ぶ開運招福の色に定めています。雄の三毛猫を航海の守りとした船乗りの言い伝えとは、成り立ちが別の話になります。
招き猫研究所がつくる招き猫「Luxen Maneki」
猫の柄にまつわる言い伝えは、猫と暮らしてきた人々の感謝と畏れから生まれてきました。その思いを受け継ぐ招き猫を迎えるなら、作り手や産地まで話せるものがよいと思いませんか。
招き猫は数多く、どこで誰が作ったのかが見えにくいと感じる人もいるでしょう。株式会社日本招き猫総合研究所が手がける「Luxen Maneki」の産地は、日本六古窯の瀬戸です。
金彩は伝統窯の職人が手で描き、注文を受けてから一点ずつ、約4〜6週間かけて仕上げます。仕上がった猫たちは、一体ずつ特製の桐箱に収まって手元に届きます。
まとめ
猫が縁起のいい動物とされてきたのは、ネズミから経典や蚕を守る働きがあったからです。柄では、船乗りが航海の守りとした雄の三毛猫に、とくに多くの言い伝えが残ります。
黒猫は、ヨーロッパで魔女の手下と見られて嫌われた一方、江戸の日本やイギリスの一部では吉とされました。同じ柄でも、土地と時代で吉凶は入れ替わるのです。
招き猫の色の意味は、こうした言い伝えとは別に研究所が定めたものです。本物の猫は柄で選ばず、招き猫は託したい願いから色を選ぶと、どちらとも気持ちよく付き合えるでしょう。












